一橋大学 HIT MAGAZINE

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■ 先輩に聴け!

研究者になるという選択
東京外国語大学世界言語社会教育センター特任助教 渡辺周さん

連載シリーズ「先輩に聴け!」では、一橋大学商学部を卒業した先輩に、大学時代の思い出や現在のお仕事、在学生へのメッセージなどを伺います。
今回ご登場いただく方は、一橋大学商学部を卒業後,大学院商学研究科(研究者養成コース)へ進学され、現在、東京外国語大学世界言語社会教育センター特任助教の渡辺周さんです。

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◆なぜ大学院商学研究科 研究者養成コースに進学されたのでしょうか

大学院生の先輩と話をしていて,研究が楽しそうだと思ったことと,研究者という仕事や生活のスタイルが企業で働くよりも自分に合っているのではないかと思ったことが,大学院の研究者養成コースに進学した主な理由です。

私は学部も一橋大学で,学部生時代に所属していたゼミでは,先生と学部生のみならず,MBAコースや研究者養成の大学院生まで含めた幅広い交流がありました。そのため,レポートを書いたり,三商大ゼミ(※)へ向けたプレゼンの準備をしていたりすると,ゼミの先生からもそうですが,大学院生の先輩方からもすごく良いアドバイスを受けることが出来ました。こうした先輩達のように,企業に関する現象を整理して本質を見極め,その背後でどのようなメカニズムが働いているのかを考えられるようになりたい,と思ったことが進学の大きな要因です。

そのため,研究が楽しそうだと思って研究者養成コースに進学したものの,入学する前から,研究とはどのようなものかについて的確に分かっていたかと言われると,今振り返ってみれば非常に怪しいところがあります。そのため,具体的に研究したいテーマが予め固まっていたというよりは,先ほど述べたようなある種の憧れに近いもので進学を決めたといった方が正確かもしれません。あとは,先生方や先輩方を見ていると,忙しそうだけれども,自分の研究テーマを自分で決めて,自分自身のキャリアに自分で責任を持てる,という点も生き方として合っているかな,と思ったというのも進学の理由です。

(※編集部注:旧学制において商業大学であった一橋大学と神戸大学,大阪市立大学の3校で行われる学生間の研究に関する討論会のこと)

◆入学後はどのようなことを学んできましたか

一橋大学では,大学院でも他研究科の授業を受けられるので,経済学研究科のミクロ経済学や計量経済学,産業組織論などの授業も履修しましたが,ほとんどは商学研究科で経営学を学ぶことに費やしました。商学研究科の研究者養成コースのほとんどの授業は,10人以下のゼミ形式で行われ,様々な本や論文を読むことで,古典的な研究から最新の研究動向まで幅広く経営学について学ぶものです。ただ正直なところ,授業について印象に残っているのは,その内容よりも,準備が大変だったという思い出です。私の場合,英語で書かれた文献を読むのに慣れていなかったため,最初は書いてある内容を把握するだけでもかなり苦労がありました。さらに,当然,英語の授業ではないので,内容を理解した上で,その論文は自分の研究にどう活かせるのかを考えたり,批判的に展開したりすることが求められていたので,そうした点でも最初は右往左往していました。大学院生の時はとても大変だという感想しか出てこなかったのですが,今になって振り返ってみると,他の人の書いたものを単なる教養として読むのではなく,自分の研究や教育に反映できる知識として取り込む力や,さらには自分の思考回路を作るための対話相手として付き合う姿勢が身に付いたと思います。

◆大学院時代の生活はどうでしたか

大学院生の時は,大学からすぐ近くにある寮に住んでいたので,日夜関係なく,寝ている時間と食事の時間などを除き,ほぼ大学の研究室にいました。意識的に研究にすべてを捧げようとしてそうしたわけではなく,実際には,授業の予習だったり,論文執筆や学会発表の準備だったりで,やることが終わらなかったため,土日も夜間も研究室に出ざるを得なかったのですが。。。

ロンドンビジネススクール

ロンドンビジネススクール

それ以外だと,ロンドンビジネススクールの方に留学させて頂いたことと,逆に海外から短期で日本にやってきた大学院生と研究室で議論をしたり,ランチに行ったりしたことが思い出に残っています。普段から英語の論文を読んでいるため,研究について議論する際に必要な英単語はすぐに出てくるのですが,日常生活に関する英単語は中学生の時に習って以来すっかり忘れているものも多く,カボチャを説明しようとしたら,英語で何というのか思い出せなかったのは,恥ずかしかった反面,今となっては懐かしい思い出でもあります。

◆研究者養成コースのプログラムを通じて、どのような能力が育ったと思いますか

一言でいうと,研究能力が格段に高くなったと思います。先ほども申し上げた通り,研究者養成コースの授業は,ゼミ形式で行われるため,準備にかなりの労力を必要としますが,しっかりとやっていれば,本や論文の読み方については極めて高い力がつくように各先生方が授業を運営して下さっています。

また,自分で本や論文を書けるようになる,という面では,ゼミナールでの先生からの指導が大きかったと思います。修士課程で大学院に入ってきたときは,それこそ研究テーマをどのように設定すれば良いのかすら分からない状態だったのですが,そうしたところから懇切丁寧に相談に乗って頂けました。また,研究が進んだ後,論文の体裁にしてゼミで発表をした際には,日本語の書き方に始まり,もちろん内容についても,自分の研究を既存研究のどこに位置付けたら良いかや,分析の仕方など様々なことについて丁寧なコメントや修正案を頂くことが出来ました。これにより,大学院を出た後,自分一人で研究をしていく力が高まったと感じています。

これから入学する学生へのメッセージをお願いします

まだ私も駆け出しの研究者ですので,これから入学する方にお伝え出来るようなこともないのですが,大学院に入って研究者というキャリアを歩むのは,大変だけどやりがいも大きい仕事だと思っています。

大変だというのは,世の中は私の頭の中で考えている通りに動いているわけではないので,何か説明したい現象に対して仮説を考えても,最初からその仮説で上手く説明出来ることはほとんどなく,仮説とデータがなぜ一致しないのかを悩むことになります。その後,別の仮説を作り,それに合わせてデータを集め直して,仮説が支持されるかチェックして。。。というプロセスを何度も繰り返さないといけません。そのため,精神的な面でも肉体的な面でもタフであることが要求されますね。

ただ,やりがいも大きいと思っています。それは私の場合,分析が最終的に上手くいって,直感に反する結果や,世の中で望ましいと一般に考えられている政策が実はそうでない場合もあるといったことを示唆する分析結果を得られたときに強く感じます。そうした意味で,私は,大学院に進学して研究者になることができ,本当に良かったと思っています。

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 渡辺 周さん

東京外国語大学世界言語社会教育センター特任助教(2010年4月 商学研究科修士課程(研究者養成コース)入学,2012年3月同修了,2012年4月博士後期課程入学,2015年3月同単位修得退学)

 

 

(2016年6月22日)