福川裕徳教授が日本会計研究学会賞を受賞しました。

2014/02/10

2013年9月に開催された日本会計研究学会第72回大会において、福川裕徳教授が日本会計研究学会太田・黒澤賞を受賞しまし た。受賞作品である著書『監査判断の実証分析』の概要と、今後の抱負について、福川教授に語ってもらいました。

fukukawa_MAGAZINE1-200x300.jpg◆受賞作の内容を教えて頂けますか。

今日、職業専門家たる監査人(公認会計士)が財務諸表監査を行う際には、監査リスク・アプローチという手法を採用することが制度的に求められています。簡単にいえば、この監査手法のもとでは、監査人は、被監査会社の側に存在している財務諸表の虚偽表示リスクを評価し、そのリスクに基づいて実施する監査手続を決定します。つまり、財務諸表が歪められているリスクが高いと判断した領域には、そのリスク評価に対応して、より多くの監査資源を投入して調べることが求められているわけです。こうした監査手法が有効に機能するためには、監査人によるリスク評価が適切に行われるとともに、リスク評価に対応した監査手続が実施されなければなりません。
拙著『監査判断の実証分析』は、監査人によるリスク評価とそれへの対応という2つの側面に着目し、監査リスク・アプローチの適用実態を実証的に明らかにすることを目的としています。第1部では、監査調書から得られたアーカイバル・データを用いて、リスク評価と監査計画との関係性を分析しています。そこでは、多くのリスク要因に基づいて監査計画が策定されているものの、全体として両者の関係性は強くないことが示されます。このことは、説明理論としての監査リスク・アプローチの精緻化の必要性を示唆しているといえます。第2部では、リスク評価方法や監査要点の設定方法がリスク評価に与える影響を、実験データに基づいて検討しています。そこでは、たとえば、監査人が立証すべき監査要点をどのように設定するかによって、同じ監査手続を実施して同じ監査証拠が得られた場合でも、当該証拠の評価が異なることが示されています。第3部では、一般に入手可能なアーカイバル・データを用いて、わが国の大手監査法人が、どのようなリスク要因に基づいて監査の価格およびコストを決定しているのかを検討しています。その分析結果からは、監査の価格およびコストの決定のあり様が大手監査法人間で異なっており、また被監査会社の性質の影響を受けることが明らかとなりました。

201309_fukukawa-300x225.jpg ◆今後に向けた抱負を聞かせて下さい。

監査人の判断・意思決定を対象とした実証的な研究は、個々の監査人、監査法人、公認会計士協会、基準設定主体に対して多くの有益なインプリケーションを示唆するとともに、さまざまな点で直接・間接に監査の質を向上させる潜在的な可能性を有しています。現に、アメリカをはじめとする多くの国では、基準設定主体や公認会計士協会が、実証的な監査判断研究を研究者に委嘱し、その結果に基づいて実務の改善を図るということが少なからずあります。しかしながら、残念なことに、さまざまな理由でわが国においては実証的な監査判断研究はほとんど行われてきませんでした。
しかし、「監査プロフェッション」がプロフェッションとして存立するためには、学問的な基礎が必要となります。監査研究の基本的な目的は、複雑な監査実務を解きほぐしその本質を適切に理解するとともに、監査実務の改善に資することにあると私は考えています。実証的な監査判断研究を蓄積していくことは、まさにこの目的に適っています。また、それこそが監査プロフェッションの健全な発展に資するとも考えています。
監査人の判断・意思決定に関連して研究すべき課題はまだまだたくさんあります。実務が直面する新たな課題も次々と出てきています。こうした課題に、これまでとは異なる新たな学問的な光をあてることにより、その本質に迫っていけるような研究をこれからも行いたいと考えています。さらに、こうした研究を通じて明らかとなる監査の本質・現状・問題・改善策を、授業を通じて学生の皆さんに伝えていくつもりです。

(記事投稿2014年2月10日)