楽天創業に至る自由な発想は一橋のキャンパスで育まれた<後編>  楽天株式会社 三木谷浩史社長 × 商学部長 三隅隆司

2014/12/08

<後編>

角を曲がった先がどうなっているか

三隅 起業されて、楽天市場を開設されてから今日に至るまで、楽天グループは急成長を遂げています。Eコマースの分野だけでなく、現在は旅行、金融、エネルギーといった分野に至るまで、ありとあらゆる分野に進出されていますね。新しく始められたほとんどの事業が大きく成長していっている。そのような「先を見る目」はどうやって養われたのですか。

mikitani5-300x200.jpg 三木谷 僕が好きな言葉に、「see around the corner」という言葉があります。「角を曲がった先がどうなっているか見る」という意味の言葉です。見えていない先をどう見通すか。楽天市場を1997年5月に始めたときには、1カ月の取扱高(流通総額)が約30万円でした。光回線などまだなくて、インターネットはダイヤルアップ接続の頃です。その約30万円のうち、僕が20万円分くらい買っていましたから、実際には10万円くらい。今はグローバルでの流通総額が年間で10兆円に近づきつつあります。ダイヤルアップの頃に、これほどの規模になると想像できた人はどれくらいいるでしょうか。僕はいつも「右脳と左脳のキャッチボール」と言っていますけれども、直観的に考えたことを理論に落とし込むようにしています。

三隅 もう少しかみくだいて言うとどうなりますか。

三木谷 うまくいく要素といかない要素について、直感で感じたことを理論的にフレームワーク化する。アカデミックなリサーチもたぶん一緒ではないでしょうか。イマジネーションをきちんと理論にする。理論からイマジネーションは生まれないけれど、イマジネーションから理論にすることはできる。

三隅 要するに、「こういうことがあるんじゃないか」という直感から、自分の中で納得できるまでストーリーをつくれるかどうか。それが先を見通す上で重要になってくる。

三木谷 そうですね。でも日本人の多くは、新しいものに対しては、どうしても否定から入るんですよ。否定と、規制を破ることに対する恐れ。たとえばシリコンバレー発の、Uberというスマートフォンアプリを使った配車サービスの企業があります。そのサービスは今、世界中の都市に広がっています。位置情報などの最先端の技術と、タクシー、ハイヤーという昔からあるサービスを組み合わせたイノベーションです。創業者のトラビス・カラニックは僕の友人なのですが、タクシー会社としての規制を回避するビジネスモデルなので、世界中で訴訟を起こされています。でも彼は全然気にしていなくて、「俺は国家と戦う。そんな規制はおかしい」と言っています。

misumi2-300x200.jpg 三隅 誰かがそういうことをしないと突破口は開かない。

三木谷 僕が最近出した本『楽天流』(講談社刊)でも、まさしく、「常識を打ち破る」「ルールを書き換える」ということがテーマになっています。日本の国としても、ハードウェアだけではもう食べていけない。素材産業も、エネルギーコストの点から海外企業との競争条件が極めて厳しい。そうなってくると、新しい組み合わせによるイノベーションをどうやって進めていくか、そのためにアントレプレナーを育てる、ということを本気で考えないとダメだと思います。

今の若者はけっして「草食系」ではない

三隅 では、ここでまた大学や、そこで学生にどう過ごしてほしいかという話に移りたいと思うのですが、まず今の若い人たちを見てどう感じていますか。

三木谷 僕は、今の若い人たちは皆さんがおっしゃるように「草食系」というわけではないと思っています。ただ、夢を持ったことがないという人が多いようなので、もっとアンビシャスになってほしいですね。昔に比べて航空運賃も安いのだから、海外旅行にどんどん行けばいいし、スマホを持っているのだから、世界から情報を取ってくればいい。日本という枠の中に閉じこもるのは損だと思います。

三隅 そうですね、今の20歳前後の世代は、日本自体の経済成長がほとんどなかった時代に育っているから、夢を描きにくいのかもしれませんが、国内でも楽天のように成長して夢を実現している企業もある。そして世界にはいろんな夢を実現できる場所もあるので、まず外を見る、いったん外に出てみるというのはその通りですね。

三木谷 僕のミッションはそこにもあるのかなと思っています。楽天での経験をベースにして、2012年に新経済連盟という団体をつくりましたが、ここをアントレプレナーシップやイノベーションの起点にしようとしています。その一環で、今度「失敗力カンファレンス」という会議を開きます。失敗というのは、英語に訳すと「failure」ではなくて「learning experience」だと言っています。

三隅 失敗は成功の母である、と。権威にこだわらずにとにかく挑戦するという、アントレプレナーシップに通じるものですね。

三木谷 リスクの話にも関連しますが、リスクには企業の存続にかかわるような重大なリスクと、リスクっぽく見えるけれども実はたいしたことのないリスクがある。ほぼすべてのリスクは後者です。だからリスクの見極めをきちん行って、これに失敗したら会社は本当につぶれるのかを判断した上で、やる・やらないを決めていった方がいい。当然、成功の確率を上げることは重要なのですが、まずは保守的な考え方を打ち破ることが、今の若者、これからの時代には必要だと思います。

ITと英語とリベラルアーツと

三隅 そのような若者に対して、今の日本の大学教育、あるいは社会科学の高等教育はどういう形でいくのがよいと思われますか。

三木谷 ひとつは、単純にセオリーを勉強するだけではなく、経済学であれば実際の経済に触れる、商学であればビジネスに触れることが大切でしょう。とくに商学部であれば、インターンシップなども利用して、生の情報・経験を学生時代から得ていくことが極めて重要だと思います。

三隅 三木谷さんご自身が、大学時代にもっとやっておけばよかったということはありますか?

三木谷 もう少し語学や、あるいはその頃はまだ今のような形でのITがなかったのですが、コンピューターの勉強はしておいてもよかったかなと思います。あとは、今振り返ってみると、大事なのはリベラルアーツですよね。現在、スタティックな経済モデルがあてはまらない時代に入ってきていると思います。歴史的なアプローチであったり、ダイナミックな思考が必要だと痛感しています。その観点からすると、やはり基礎となるリベラルアーツという概念が重要です。

三隅 幸い、一橋には歴史、哲学、文学なども含めて、社会科学・人文科学の幅広い分野にそれぞれ素晴らしい先生方がおられる。

三木谷 一橋の今のプログラムもその方向で進んでいらっしゃるんだと思いますが、一般教養の教養レベルを上げていく。単なる知識ではなくて、知識を踏まえた上で「考える力」を身につけさせる。

三隅 最近は理系人気が高まっていて、社会科学は志望する学生が少し減ってきているという傾向もあります。

三木谷 そうなんですか。これからは、おそらく文系の人にもコンピュータサイエンスは必要になってくるので、一橋としてはリベラルアーツとIT、これを組み合せたような教育を目指すべきではないでしょうか。そして僕が思っているのは、別に英語がすべてではないですが、せめて英語くらいはマスターしようよと。

三隅 ITや英語といったスキルと、深く考える力とを一緒に身につけさせる教育という感じですね。商学部についての期待はありますか。

三木谷 先ほど、スタティックな経済モデルがあてはまらない、という話をしました。経済がグローバル化する中で、純粋にスタティックなモデルのケインズ理論だけで説明するのはなかなか難しい。そこで僕は、イノベーションの理論を生み出したシュンペーター的なアプローチと、ケインジアン的なアプローチの融合、つまりハイブリッドがよいのではないかと思っています。その点、一橋の商学部はいい位置にあるのではないでしょうか。あとは、経営マインドをつけさせる教育がポイントになるのでは。

三隅 おっしゃる通りで、経営リテラシー、経営マインドをつけさせるというのは結構難しくて、それをどう厚くしていくかが課題です。おそらく、今の子どもたちが大きくなる頃には現在ある仕事のいくつかがなくなっていて、その一方で、今誰も考えてもいないような産業なり仕事が、十数年後に生まれてくる。楽天のように。そのときに一番大事なのは、ものを考える力とマネジメントの能力だと思うので、そのための教育を強化していく必要があると私たちも痛感しています。最後に、高校生や一橋の後輩たち若い世代の人々に向けて何かメッセージをいただけますか。

三木谷 僕の中では、やはり一橋大学で過ごした4年間が、自分のベースになっていると思っているんですね。三隅先生も含めたいろんな人との出会い、あの体育会も一橋ならではの体育会だったと思っているので、その中でのいろいろな経験や、ゼミも含めたキャンパスライフ全体が、今の自分を形づくっています。とくに一橋の自由な校風が、起業から今日に至る僕の自由な発想をつくりだしたと思っています。他の大学に行っていたら、違ったことになっていたかもしれません。

三隅 どうもありがとうございます。

三木谷 こちらこそ、今日はありがとうございました。

(了)

(2014年12月8日)