商学部長の挨拶

商学部長の挨拶

一橋大学 商学部長・大学院経営管理研究科長 加藤俊彦

一橋大学の起源は、1875年(明治8年)に銀座尾張町(現在の銀座6丁目)に開設された、「商いの方法」を学ぶ私塾である「商法講習所」に遡ります。明治時代に入り、森有礼や渋沢栄一といった人々は、日本が独立した国家として発展していくためには、商業や貿易などのビジネスに関わる知識を有する人材を育成していくことが急務だと考えました。そのような知識を教授する、今で言うビジネススクールとして設立されたのが、商法講習所でした。
その後、商法講習所は政府に移管され、東京商業学校(1884年)、東京高等商業学校(1902年)、東京商科大学(1920年)と発展していきます。さらに、第二次世界大戦直後の1949年には、単科大学であった東京商科大学は、商学部・経済学部・法学社会学部(1951年に法学部と社会学部が分離)から構成される一橋大学へと変遷を遂げています。

このように、一橋大学商学部・大学院経営管理研究科は、約150年にわたり、わが国のマネジメント領域における教育・研究の拠点としての役割を果たしてきました。
その一方で、私たちは、長い歴史に依拠するだけではなく、社会の変化に合わせて、自ら変革を進めてきました。
その最近の成果の一つが、学位教育プログラムの国際認証の取得です。商学部・大学院経営管理専攻(SBA)と大学院国際企業戦略専攻(ICS)は、2021年7月に、ビジネススクールの代表的な国際認証機関であるAACSB Internationalから、それぞれ国際認証を取得しました。AACSB国際認証の取得は、日本の国立大学で初めてとなります。
時代の変化に合わせた教育プログラムの拡充にも、積極的に取り組んできました。例えば、90年代後半に、現代のビジネススクールで中核的な教育プログラムであるMBA(経営学修士)プログラムを小規模で開設し、今日では4つのMBAプログラム(経営管理、経営分析、金融戦略・経営財務、国際企業戦略)で1学年200人程度の学生を抱えるまで、拡大しています。
また、民間企業を対象とする非学位教育プログラムについても、2000年代前半から、執行役員層向け研修プログラムの開発に着手するなど、段階的に進めてきました。その結果、現在では、ミドルマネジメント向けプログラムから、先端的な金融技術やデジタルトランスフォーメーション(DX)といった特定の領域に焦点を当てたフォーラム、経営層向けのエグゼクティブ・プログラムに至る様々なプログラムを、本学の関連法人と共同で展開しています。

これらの幅広い層をカバーする、本学のマネジメント教育プログラムの中で、学士課程である商学部の教育プログラムは、「入口」にあたります。
そこでの主眼は、将来の社会を担っていく若い方々に対して、その後のキャリアのベースを構築する機会を提供することにあります。

一橋大学商学部の教育プログラムにおける全般的な特徴としては、次の2点が挙げられます。
その一つは、経営、会計、金融、マーケティングの4つを中心として、マネジメントに関わる領域を体系的かつ段階的に学べる点です。1年次必修の入門科目である100番台科目から、2年次以降に履修ができる200番台、3年次以降に履修できる300番台と、理解度が上がるにつれて、より高度ないし応用的な内容を、段階的に学んでいきます。さらに、より進んだ知識を獲得したい場合には、大学院修士課程との共修科目である400番台の科目も履修できます。
もう一つは、少人数のクラスを中心とするきめ細やかな教育です。一橋大学商学部では、1年次の導入ゼミから4年次の後期ゼミまで、在学する4年間にわたりゼミナールが必修となっています。それぞれのゼミナールでは、最大15名程度のクラスで、教員や同級生と議論をしながら、学びを深めていきます。

2年次からは、特定の領域に関する学びを深めたい人に向けて、2つのサブプログラムも用意しています。
その一つが、「渋沢スカラープログラム(SSP)」です。SSPは、2年次から英語で専門科目を学び、3年次に原則1年間の海外留学を経験して、英語の運用能力と専門知識を高めるためのプログラムです。また、SSPに参加しない学生でも、大学での成績と外国語の基準を満たすと、全学的な制度の下で、100校を超える国際交流協定を締結した海外大学への長期留学ができます。コロナ禍で直近の状況は変わっているものの、コロナ禍前の時点では、毎年100人を超える本学の学部生(1学年の総学生数の1割超)が、半年間から1年間の協定校での留学を経験しています。
もう一つのサブプログラムは、「データ・デザイン・プログラム(DDP)」です。DDPでは、データサイエンスとデザイン経営を中心とした領域を重点的に学ぶサブプログラムです。DDPは、地方自治体や民間企業などの外部組織とのプロジェクトなども、積極的に進めています。

さらに、3年次までの学部専門科目の成績が上位3割以内の成績優秀者は、学部4年間とプラス1年間の追加で、学士号と修士号を取得できる「5年一貫プログラム」に進むこともできます。5年一貫プログラムでは、MBAコースと研究者養成コースの2つから選択可能です。MBAコースでは、学部入学から5年間でMBAプログラム(経営分析プログラム)を修了して、マネジメントに関する高度な知識と応用力を獲得できます。研究者養成コースでは、自らの専門領域での研究能力を段階的に高めて、博士後期課程修了後は、国内外の大学・研究機関においてマネジメント領域の研究者として活躍していくことが期待されています。
また、すべての学生は、MBAコース経営分析プログラムと研究者養成コースのいずれについても、大学院の入学試験に合格すれば、学部4年次を修了してから2年間の修士課程に進学することもできます。

以上のように、一橋大学商学部では、マネジメントに関する幅広い知識を体系的に学ぶとともに、学生個人の志向性によって選択できる、多彩な学びの場を提供しています。本学商学部で学ぶ方には、このような機会を在学中に積極的に活用して、卒業後に社会で活躍するための基盤を形成してもらいたいと考えています。

2022年4月
一橋大学 商学部長・大学院経営管理研究科長
加藤 俊彦