「当商業学校もその昔を考えて起因はと申すと、(・・・)森有礼君が『ビジネス・スクール』というものを作って、実業教育をしたらよかろうということに気づかれたのが、そもそもこの学校の起り立つ原因をなしたと言ってもよいのでございます」 渋沢栄一
150年前、日本に「ビジネス・スクール」を作ろうと思いついたのは、のちに初代文部大臣を務める森有礼でした。それを支えた渋沢栄一は、一万円札の顔にもなった日本の近代経済社会を築いた人物です。こうした人々の努力によって一橋大学の源流となる「商法講習所」は開設されました。それは私たち商学部の始まりでもありました。このとき以来、実業を重んじる一橋大学の建学の精神は、今も商学部や大学院経営管理研究科に脈々と受け継がれています。
一橋大学の歴史は、1875年(明治8年)の「商法講習所」の発足から始まります。そこは商法(商いの方法=ビジネスの実践)を学ぶ場所として、まさしく現在の一橋大学商学部の誕生の起点でした。この教育機関は当時、日本が諸外国と交流を持つ際に、海外商人と対等に交渉ができる優れた人材の育成を目指していました。その後、名称は、1884年に東京商業学校、1887年に高等商業学校と改称されました。

銀座6丁目に残る商法講習所の碑
その後、1890年代以後の日本の産業革命に伴う資本主義の発展と、それによる商業や経済の社会的プレゼンスの高まりとともに、本学も、商業実務の教育機関を越えて、より学術的に高度な教育・研究機関へと発展していくことになります。それに伴い名称も1902年の「東京高等商業学校」(東京高商)への変更を経て、ついに1920年には、日本において商業を専門とする最も権威ある教育・研究機関として「東京商科大学」(東京商大)が発足しました。このように本学の150年の歩みの前半において、名称は変遷したものの常に「商」という字を看板に掲げてきたのです。

「東京商科大学」発足
第二次大戦後、1949年に新制・一橋大学が発足して、商学部に加え、経済学部・法学社会学部が発足し、大学は拡大していきましたが、商学部はそれ以降も本学の歴史と伝統を受け継ぐ存在であり続けてきました。
現代までに、商学部の教育は、幾度かの大きな改革を経ながら発展してきました。以下、それらを紹介します。(1)1996年にはそれまで一橋大学は、学部1・2年生が小平キャンパス、3・4年生が国立キャンパスに分かれていましたが、国立にキャンパスを統合し、専門分野を学ぶ上で、より体系的なカリキュラムを提供する「4年一貫教育」が全学で始まりました。また(2)2000年には「学部・修士5年一貫教育プログラム」として、学部4年次から大学院修士課程の授業を履修することにより、5年で修士号を取得できるプログラムを商学研究科経営学修士(MBA)コースに新設しました。さらに(3)2007年には商学部カリキュラムを大きく改訂し、学部1年次の導入ゼミナールと2年次の前期ゼミナールを新設し、必修科目としました。これにより、商学部生は入学から卒業までの4年間、必ずいずれかのゼミに所属し、教員やゼミ仲間と少人数で学習する機会を得ることとなりました。

少人数でじっくり議論できるゼミナール
商学部から始まった新たなプログラムが全学に広がる例も多くあります。(1)2012年に開始された英語教育プログラムPACE(Practical Applications for Communicative English)は、当初は商学部の1・2年生を対象に、ネイティブ教員による実践的な英語コミュニケーション能力の向上を目的としていましたが、2017年には全学の1年生向けプログラムへと拡大しました。それを機に、商学部では、2年生以上を対象としたEDGE(English Discourse for Global Elites)を新設し、英語コミュニケーション能力をさらに向上させることを狙いとした科目の提供を始め、現在ではこちらも全学のプログラムとなっています。
また(2)2014年には、少人数選抜制でグローバル・リーダーの育成を目指す渋沢スカラープログラム(SSP)を開始し、英語での経営学教育や長期留学を通じて国際的な視野をもつ人材を育成してきました。現在は他学部にもグローバル・リーダーシップ・プログラム(GLP)の名の下で同様の取り組みが広がっています。さらに2021年からは、データとデザインを軸にイノベーション人材を育てるデータ・デザイン・プログラム(DDP)が始動し、他学部からも履修者を受け入れています。

グローバル・リーダーを目指して
商学部の卒業生には、日本を代表する企業の経営者や、急成長するスタートアップの創業者も多く、一橋大学商学部が輩出した人材は、グローバルに活躍し、経済社会の発展に大いに貢献していると言えます。
4年制大学の上に大学院を置くという戦後の新制大学の制度のもと、一橋大学大学院商学研究科は(経済学・法学・社会学と共に)1953年に発足しました。こうした研究者養成を中心とした教育体制に加えて、1996年には高度な学びを求める社会人を対象とした修士課程専修コース(修士課程2年間)が新設されました。この社会人を対象にした新しいコースは、2000年に経営学修士(MBA)コースへと発展し、「一橋MBA(HMBA)」(2018年以降、HUB)として広く知られるようになりました。
一方、1998年には新たに「国際企業戦略研究科」が独立研究科として設置され、2000年から千代田キャンパスで本格的に教育を開始しました。同研究科の下には、国際経営戦略コースと金融戦略・経営財務コースなどが設置され、2003年には両コースは国立大学として初の専門職大学院の一つに認定されました。国際経営戦略コースでは、授業や学内のコミュニケーションをすべて英語で行い、グローバルな教育を提供してきました。また金融戦略・経営財務コースは、ファイナンスを中心にしたプログラムを、金融機関のスペシャリストを主な対象として展開してきました。

2000年、千代田キャンパス竣工
2018年には、商学研究科と国際企業戦略研究科(経営法務専攻を除く)が統合され、現在の経営管理研究科となりました。これにより「一橋ビジネススクール(HUB: Hitotsubashi University of Business School)」が誕生し、日本のMBA教育の多様なニーズに応える4つのMBAプログラムを提供することとなりました。
4つのMBAプログラム
| 経営管理専攻
(SBA:School of Business Administration) (日本語プログラム) |
経営分析プログラム | 国立キャンパス、平日昼間 |
| 経営管理プログラム | 千代田キャンパス、平日夜間・土曜
(サブプログラムとして「ホスピタリティ・マネジメント・プログラム」を設置) |
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| 金融戦略・経営財務プログラム | 千代田キャンパス、平日夜間・土曜 | |
| 国際企業戦略専攻
(ICS: School of International Corporate Strategy) (英語プログラム) |
MBAプログラム | 千代田キャンパス、平日昼間 |
また博士課程については、国立キャンパスにおいて研究者養成コース(修士課程・博士後期課程)があり、千代田キャンパスでも社会人向け博士後期課程が開講されています。
国際認証について、一橋ビジネススクールは、経営管理専攻および国際企業戦略専攻のそれぞれが、ビジネススクールの教育内容の品質保証を行う国際認証AACSB(Association to Advance Collegiate Schools of Business)を、2021年に日本の国立大学として初めて取得しました。
企業経営が高度化する中、優れた経営リテラシーを持つ高度経営人材を輩出する一橋ビジネススクールの役割はますます大きなものになっています。
戦前以来、日本の経営学においては、海外の経営学者の文献を丹念に読み日本に紹介することが重視される時代が長く続きました。しかしその後は、日本企業を直接の対象とする実証的アプローチによる研究が盛んになっていきました。1980年代以降、商学部は、積極的に学外からの人材も招き、日本における経営学の新潮流をリードする役割を果たしました。こうした潮流の変化とそれを主導した教授らが、その後の商学部と現在の経営管理研究科の教育・研究にも大きなインパクトと方向付けを与えてきたのです。
一橋大学では、この時期以降、日本企業の強さの源泉を新製品やイノベーションを生み出す組織力に見出す研究や、情報技術や組織のネットワーク化の流れにいち早く着目した研究など、現実社会の先進的な動きを捉えた先駆的研究が盛んになっていきました。その後、イノベーションの役割が年々著しく高まる中、社会的な営みであるイノベーションを学際的かつ体系的に研究する「場」として、1997年に「イノベーション研究センター(IIR)」が設立されました。現在では、イノベーションに関する学術研究に留まらず、広く実業界とも連携した世界的研究拠点を目指しています。

年間を通じて活発に行われているリサーチワークショップの様子
21世紀に入って以後は、世界的な研究教育拠点の形成を重点的に支援する文部科学省のプログラム「21世紀COEプログラム」とその後継の「グローバルCOEプログラム」において、拠点プログラムとして採択され、多くの成果が生み出されました。そうした中で、大学院生時代からの実証研究プロジェクトへの参加、海外での学会発表や国際コンファレンスでの報告、国際学術誌への投稿などの機会を通じて、若い世代の気鋭の研究者がグローバル志向で活躍するようになりました。その傾向は、海外研究者との盛んな交流を通じて、現在さらに強まっています。
「理論と現実の往復運動」という言葉は、この四半世紀以上に渡り、現在の商学部・経営管理研究科の教育と研究を特徴づける基本方針とされてきました。私たちは、企業活動に関わる「現実」を「理論」とする研究をし、またそうして生み出された「理論」を「現実」に適用しつつ有効な解を導き出してきました。

こうした「理論と現実の往復運動」の視点は、実はすでに明治時代の本学の草創期に渋沢栄一がこの学校に期待したことでもありました。1894年(明治27年)、高等商業学校の卒業式でこう述べています。
「ややもすると世の中は学理と事実と(は)違うという人があるが、これは大なる間違いで決して真の学問の道理と事実が違うはずがない」
「諸君は学理と事実を密着させるにおいて最もその責任がある」
(『渋沢栄一伝記資料 26巻』595頁、596頁)
この「理論と現実の往復運動」によって、渋沢が期待したように、学問と事実を密着させていくことは、私たち商学部・経営管理研究科がこれからも責任をもって守っていくべき重要な理念の一つです。
一橋大学商学部・経営管理研究科は、これからも経営に関する高度な専門知識と深い思考力、優れた人格をもつリーダーを育成し、世界の豊かな発展に貢献していきます。
