導入ゼミナールⅡ(1年生/冬学期)藤原雅俊准教授

2014/01/10

【導入ゼミナールⅡ(1年生/冬学期) 藤原雅俊准教授】

「理論」と「現実」の往復運動を通じて、「経営思考力」を鍛える

fujiwara_zemi0.jpg ―― まず、先生はどのようなご研究をされているのでしょうか。

藤原: 私が主に研究している領域は、「経営戦略論」と「イノベーション・マネジメント」です。世の中には市場競争を勝ち抜く企業と、そうでない企業があります。あるいは、画期的な新製品や新サービスを次々に生み出す企業もあれば、創造性を発揮できずに衰退していく企業もあります。こうした企業間での違いが、なぜ、どのように生じるのかを分析しています。

たとえば、宅急便で知られているヤマト運輸は、まさに新サービスを開発して成功した企業の一つです。誰もが儲からないと思っていた個人宅配事業に進出して宅急便のしくみを構築し、これを柱に成長を遂げてきました。さらに近年では、中国やマレーシアなど、グローバルに宅急便事業を展開しています。
その成功の源には、二代目社長・小倉昌男氏の大英断がありました。大手取引先との関係を断ち切ってまで、個人宅配事業に賭けたのです。しかしそれは運を天に任せた博打ではありません。ターゲットとする顧客を明確に定め、理詰めで施策を練り、現場を論理で動かしていったのです。

こうした事例と理論を付き合わせることによって、企業が市場競争を勝ち抜いていくにはどうしたら良いのかを研究しています。

―― 導入ゼミナールⅡにおいて、先生はどのようなことをされているのでしょうか。

藤原: 導入ゼミⅡは、1年生を対象として輪読と討議を重ねる半年間のコースです。ゼミ教育の良いところは、単なる少人数制ではないところにあると私は考えています。人数を絞ることはあくまでも手段であり、その目的は、ビジネスをしていくうえで必要なリテラシーを携えて世の中の経営現象を読み解く力、すなわち「経営思考力」を鍛えることにあると思います。自分が経営者だったら、どう戦略を立て、判断をして、実行に移すのか。ゼミは、これらを深く考え抜く力を養っていくうえで格好の場だと思います。
経営思考力を養うには、経営に関する「理論」と「現実」の往復運動を、何度も繰り返すことが重要です。そのため、私のゼミでは経営戦略に関する教科書を読み込みつつ、優れた実務家が記した書籍を並行して読み進めています。具体的には、毎週決められた読書範囲をレジュメにまとめてもらい、ゼミに臨んでもらっています。そのうえで、各自のレジュメに基づいて全員で討議を行っています。

―― 先生なりに工夫されている特色はありますか。

藤原: 学んできた戦略概念で読解可能な経営現象について学生の意見を求めることが多い、というのが特色でしょうか。質問して答えておしまい、ではなく、そこからさらに議論が発展していくことが重要で、それができるのはゼミ生同士の信頼感があればこそ。
一橋の学生は、何か言われても、きちんとそれに答えようと食い下がるし、考えることを放棄しない人が多い。他の学生の発表に対しても、遠慮せずに意見を言う。その姿勢はとても素晴らしいと思っています。

導入ゼミⅡの風景

fujiwara_zemi1.jpgイチョウの葉が黄色く輝き始めた11月中旬。藤原先生の導入ゼミⅡを訪問。
この日は、沼上幹著『わかりやすいマーケティング戦略』をベースにしつつ、ヤマト運輸の小倉昌男氏が書いた『小倉昌男経営学』の第三章「市場転換――商業貨物から個人宅配へ」について3人の学生がそれぞれ解釈したことを発表する、という内容だった。
議論の焦点は、市場セグメンテーション(市場細分化)とターゲティング。最初に、長崎希生さん、大津直樹さん、寺田香穂さんによるプレゼンテーションが行われた。それぞれが解釈したセグメンテーションの軸に従って、図表をホワイトボードに書き記し、解説をしていく。その後、各人の発表内容について、全員で討議。議論の中心は学生たちで、藤原先生はギリギリまで口出しをしない。そして、ここぞというときに割って入る。
「その指摘に対して、本当に納得して良いの?」「移動障壁と参入障壁の違いは?」。鋭い合いの手によって、議論が深く、そして広く展開されていく。
興味深かったことは、同じ本の内容を題材にしているにもかかわらず、見立てがまったく三者三様だということ。 「どのレンズを使って現象を見るのかによって、セグメンテーションは大きく変わってしまう。セグメンテーションが決まらなければ、ターゲットを定めることはできず、戦略の第一歩を踏み出すことができません。今日ここで学んだことは、いずれ会社に入ってから、独自の戦略を考えるときにも、きっと役立つはずです」という、藤原先生の言葉で締めとなった。

受講生からのひと言

fujiwara_zemi2.jpg 鄭泰焄さん(東高校出身)
「私は将来、"企業経営の医者"と言われる経営コンサルタントになろうと思い、一橋大学商学部に入りました。経営学の知識に基づいて討論しながら自分の考えを深める、という特色に惹かれ、藤原先生のゼミを履修しています。このゼミで得た知識や経験、さらにはこれからの学びを活かして、夢に向かいたいと思います」

川村映梨子さん(明治学園高校出身)
「議論の雰囲気に惹かれて、導入ゼミⅠ(夏学期開講)に続いて導入ゼミⅡでも藤原先生のゼミを選びました。討議が活発に行われていて、面白いですね。レジュメをつくってプレゼンすることも楽しく進められています。今後はさらに経営の論理を身につけて、卒業後の進路に活かしていきたいと考えています」

堀田直也さん(横浜翠嵐高校出身)
「最初は人前で発表するのが苦手でしたが、今はだいぶ慣れてきました。経営は、本当に『言うは易し、行うは難し』で、理論を実践して成功するというのは、とても難しいものなのですね。ゼミでさまざまな理論と事例に触れることで、奥が深い学問であることを実感しています」

(記事投稿2014年1月10日)