マーケティング概論(1年生必修) 上原渉 准教授

2014/02/24

【マーケティング概論(1年生必修) 上原渉 准教授】

消費者の頭で考える

1_uehara_B_311.jpg国が違えば、価値観も変わる

私の専門はマーケティングです。マーケティングとは、製品やサービスの価値を創り出し、消費者にそれを伝え、届けるための企業活動全般を指します。皆さんも普段の生活のなかで、広告を見たり、店頭で商品を手に取って買い物をしたりする際に、企業のマーケティング活動に触れる機会があるかと思います。そういう意味では、比較的とっつきやすい学問と言えるでしょう。 なかでも私は、中国やインド、インドネシアなど、日本とは異なる新興国市場において、企業がどのようにマーケティング活動を展開しているのかに興味を持っています。 日本では、2000年くらいから新興国市場が注目されるようになり、実際に多くの企業が進出していきました。ところが、その実態を見てみると、必ずしもうまくいっている企業ばかりではありません。むしろ、苦労している企業のほうが多いように感じます。それを調査し、分析してみると、マーケティングがうまくいっていないことが多いのです。異なる価値観を持つ消費者に対してどうやって価値を伝えるのかが,マーケティング成功の鍵を握っています。 そうした問題意識を持ちながら、日本企業におけるマーケティング機能に関する研究に取り組んでいるところです。たくさんの企業の協力を必要とする企業研究が実現できるのは、多くの卒業生を輩出してきた一橋大学ならではと言えます。

マーケティング戦略に失敗すると、顧客を奪われることも

大学で学ぶ理論と、現実の姿では、かなり違いがあります。例えば,教科書ではマーケティング部門が事業の中で中心的な役割を果たすように描かれていますが,現実にはマーケティング部門が非常に弱い企業もあります.こうしたことが通用してきたのは、社会的文脈を共有する人々が暮らす日本だからかもしれません。しかし、文脈を共有していない海外市場では,それは通用しません。
たとえば、ある大手化粧品メーカーは中国に進出し、市場開拓に努めてきました。これまで、「化粧をする」という文化のなかった国に、化粧文化を根付かせ、多くの顧客を獲得することに成功したのです。ところが最近になって地道に切り開いてきた市場を、後発の欧米企業に奪われるようになってきました。その背景には製品シリーズが乏しく、以前からあるブランドということで、古くさい=年配の人の化粧品というイメージが定着してしまったことがあります。これはまさに、マーケティング戦略の課題です。
そしてこれはマーケティング部門だけの問題ではなく、どの市場に資金を集中投資するか、という経営の意思決定の問題でもあります。それらを念頭において、今後、日本が新興国でビジネスをしていく上でどんなマーケティング戦略をとるべきかを探究しています。

マーケティング・マネジメントについて学ぶ

私が担当している授業の1つ、「マーケティング概論」は、経営概論、金融概論、会計概論と並ぶ商学部1年生の必修科目です。マーケティングは、経営学や経済学、心理学、社会学といった諸学問を基盤にする応用学問。具体的な企業の成功例、失敗例を紹介しつつ、マーケティング理論についてひもといていきます。
講義内容は、世界中の大学で標準的に用いられているテキストをベースにしています。とくに、一橋大学の学生は卒業した後、海外でのビジネスを経験する人も多いでしょうから、海外勤務になっても役立つよう、事例を交えながら、できるだけ現実を踏まえた話をするようにしています。

(コラム)
「マーケティング概論」授業風景

3_class_B_251.jpg月末に中間試験を控えた11月中旬、マーケティング概論の授業を見学させてもらった。授業開始10分前にもかかわらず、すでに大教室はほぼ満席。受講生は約450人と多く、一つの教室に入りきらないため、別教室のサテライト授業で受講する学生もいるほどの人気授業だ。
授業開始とともに、前回の「ブランド戦略」に関する復習から始まった。
「ユニクロがGUというブランドをつくったのは、大手スーパーなどがユニクロと競合する製品を出してきたからなんですね。GUというブランドを新設することで、ユニクロが競合他社の製品よりもワンランク上の製品だという認識を植え付けて、価格競争に巻き込まれるのを回避したわけです。これが、『フランカー・ブランド戦略』です」。
「一方の、『ファイティング・ブランド戦略』は、真っ向勝負でぶつけるブランドのこと」。ウォッカ・メーカー2社のブランド戦略を例に語る迫真の企業戦略に、知らずしらずのうちに、ブランド戦略の面白さに引き込まれていく。
さらに内容は、「ポジショニング」へ。ポジショニングとは、「企業の提供物やイメージを、標的市場のマインド内に特有の位置を占めるように設計する行為」だと言う。定義を聞いてもなかなかピンとこないが、これも事例を聞くと腑に落ちる。
「『スプーン一杯で驚きの白さに』(花王・アタック)とか、『100人乗っても大丈夫』(稲葉製作所・イナバ物置)などのキャッチは、消費者との約束であって、競合ブランドとの類似点と相違点を定義して、消費者に伝達する行為なんですね」。
さらに話は、差別化やデザインの重要性、ブランドのストーリーにまでおよんだ。上原先生は製品やサービスだけでなく、スタッフやイメージもポジショニングに重要な役割を果たしていることを解説。身近な事例と照らし合わせながら考えることで、より理解を深めることができた。

上原先生から学生へのメッセージ

2_class_A_318.jpg 「私自身、学部も大学院も一橋でしたから、この大学には単なる職場という以上の思い入れがあります。学生は授業にはまじめに出席し、レベルの高い話もできて、教員としてもとても助かっています。
学生には、大学での学習内容と実際の社会現象とを対比させるという視点を持ってほしいと思っています。学生も普段は一人の消費者なので、自分の消費行動や企業のマーケティング活動を観察することができます。また、これからは大手企業に入れば安泰という時代ではありません。新興国での事例などを通じて、グローバル市場で日本が置かれている状況や危機感なども感じ取ってもらえたらと思っています。」

(記事投稿2014年2月24日)