後期ゼミナール(3~4年生) 円谷昭一准教授

2014/05/07

後期ゼミナール(3~4年生) 円谷昭一准教授】

財務分析を「現場」の視点から学ぶ

tumuraya1-212x300.jpg ―― どのようなご研究をされているのですか?
円谷: 皆さんのまわりにあるものは、基本的にはすべて企業がつくったものです。企業は、製品やサービスをつくるために労働者・原材料・資金を必要とします。私は、このうちの「資金」について研究をしています。
企業といえども、人から資金を借りる以上は、相手から自分を信用してもらえるようにさまざまな情報を開示しなければなりません。なぜなら、開示する情報の質や量によって、相手に信用される度合いが大きく違ってくるからです。

ICT(情報通信技術)の発達や証券取引システムの高速化などによって、以前と比べると株式市場での売買は驚くほどに容易になり、売買手数料も下がってきました。その結果、デイトレーダーなどと呼ばれる短期売買を繰り返す投資家も現れ、最近では株式市場の短期化を危惧する声も高まってきています。つまり、決まった企業に中長期的に投資をするのではなく、短期の売買を繰り返しながら利益を狙う投資家が増えてきているという指摘があります。日本の企業が中期・長期的な視点で経営をしていきたい場合には、自社の中長期の経営計画やビジョンをどうやって投資家に説明していけばよいのかが重要な問題になってきます。
こうした状況を踏まえて、私の研究では、企業にとって効率的な資金調達のためにどのような質と量の情報を開示すればいいのか、その情報をいかに発信したらいいのか、そうした問いに答えるために探究を続けています。

―― 一橋大学のゼミ教育は、どんな点が優れているのでしょう?
円谷: 一橋の最大の特徴はなんといっても、4年間にわたって全学生がゼミを受講しなければならないことにあります。特に3年生から始まる後期ゼミは、ゼミからでしか得ることができない、濃密かつ質の高い知識を習得する場です。4年生になると一週間の学習の多くを、ゼミ発表のために費やすことになります。
また、ゼミの同級生(「ゼミテン」と呼んでいます)は、生涯の友人となります。一橋では、こうしたゼミ活動をとても大切な場と据えてカリキュラムが組まれています。単に一つの講義ではなく、総合力を養う場として、ゼミを大変重視しているのです。

―― 円谷先生の後期ゼミでは、どのようなことを学ぶのでしょうか?
円谷:  3年生は、冬学期から「日経ストックリーグ」に参加し、全国600チームの頂点を目指して日々奮闘しています。日経ストックリーグとは、日本経済新聞社が主催する中・高・大学生を対象にした株式学習コンテストのこと。仮想資金500万円で独自の投資視点を構築して、全上場会社(3500社)のなかから20社を選んでポートフォリオを作成し、レポートを提出します。
評価の対象となるのは儲けた金額ではなく、投資の視点の論理性や斬新さです。現在、学期末のレポート提出に向けて、3年生2チームが「ロボット化」と「医療分野」をテーマにポートフォリオを作成しているところです。
一方、4年生は就職活動などを終え、現在は卒業論文の作成に取り組んでいます。 ちなみに、4年生の就職内定先は、商社、メーカー、金融、コンサルティング会社など。公認会計士試験に向けて準備している学生もいます。

―― 円谷ゼミの特色を教えてください。
円谷:このゼミのモットーは、「事件は教室では起こっていない!」です。自分の足で企業活動の最前線を見ることを重視しています。2013年だけでも、サントリーやトヨタ、デンソーの工場見学を始め、計9か所の見学を行いました。
そのほかにも、ゼミ生が自主的に企画を立てて、コンサートに行ったり、ナイトクルーズに行ったりと、勉学だけでなく、見聞を広める活動も積極的に行っています。

円谷ゼミのある一日

tumuraya2-300x161.jpg  今日は、3年生のゼミ生たちが、「日経ストックリーグ」に向けて選定した20社についてプレゼンを行う日。3年生9名が2チームに分かれて、それぞれの視点で、なぜ、その20社を選んだのかをプレゼンしていった。
まずは、「ロボット化企業」について、浅見晋一朗さんがグループを代表して説明。高度な技術を要する工程をロボット化、機械化、自動化などすることによって、効率化を積極的に図っている企業について、独自の視点で19社を選定したプロセスが語られた。

印象に残ったのは、「もっとも重要なのは、企業のパッションがあること」というひと言。確かに、大きな投資を必要とするロボット化には、企業のトップの熱意が不可欠だ。ところが、円谷先生からは厳しいひと言が----。
「スクリーニングするなかで、面白い企業が抜け落ちてしまって、結果的に大企業ばかりになってない? これってつまらないよね」。その言葉の真意は、スクリーニングの仕方に穴がないかどうか、論理的かつ独創的かどうか、ということをしっかり考察させようという、愛の鞭といったところか。実際に、そのやり取りは、鋭いながらも、ときに笑いも交え、和気あいあいとした雰囲気だった。
続いて、「医療分野」のポートフォリオについて、白根健太郎さんが、もう一つのグループを代表して発表。日本の優れた医療技術・サービスを、パッケージとしてグローバルに展開できる企業を選出するにあたり、どのような手法でスクリーニングを行ったか説明していく。

発表が終わると、またしても円谷先生から鋭い突っ込みが。「結果は面白いんだけど、これって、選ぶプロセスがブラックボックスになってない?」。さらに院生からも、「500万円を均等に分けるのではなく、リスクを見ながら、ちゃんと重み付けをしたほうがいい」と、厳しい意見が出た。
それでも最後は、「それぞれよくがんばって、なかなかうまくまとめてきましたね。学期末の発表に向けて、さらにがんばってください」という、円谷先生のねぎらいの言葉で締めくくられた。

ゼミ生からひと言

tumuraya3-300x141.jpg 高崎祥徳さん(仙台第二高校出身)
「ゼミでは、テーマ設定からイベントまで、すべて生徒の自主性に任せてもらえるのでやりがいがあります。一方で、先生からはちゃんと愛のあるフィードバックやフォローをしていただけるので、安心して活動できます。また、日経ストックリーグや証券アナリストの方を前にした発表など、定期的に自分たちの実力を試すような機会を設けてくださり、刺激もあって、大変勉強になっています」

野中菜央さん(佐賀西高校出身)
「会計系のゼミに入ろうということはもともと考えていて、他ゼミとも比較しましたが、最終的には円谷先生の人柄に惹かれて決めました。先生はとても学生思いなんですよ! 皆、先生の人柄に惚れて入った仲間です(笑)。日本の産業のリアルな現場を見学する機会が多いのも、このゼミの特徴です。社会に出たら、ゼミで学んだ調査・分析・アウトプットの手法を生かしつつ、マーケティングや経営企画など、いろいろな仕事を経験したいと思っています」

ジュハンナさん(大元外国語高校(韓国)出身)
「もともとマーケティングか戦略のゼミにしようかと思っていたのですが、円谷先生のゼミなら会計系でも面白そうだと思って選びました。実際に、円谷先生は生徒の自主性を重んじてくださるので、とてもやりがいがあります。将来はコンサルティング業界に進みたいと思っていますが、円谷ゼミで身につけた、『自分でテーマを探して取り組む』という姿勢が、きっと役立つ日が来ると思います」

(記事投稿2014年5月7日)