科学技術への顕著な貢献 2015(ナイスステップな研究者) に大山睦准教授が選定されました

2016/01/22

科学技術・学術政策研究所では、平成17年より、科学技術イノベーションの様々な分野において活躍され、日本に元気を与えてくれる方々を「ナイスステップな研究者」として選定しております。
平成27 年においては、科学技術・学術政策研究所の調査研究活動や専門家ネットワーク(約2,000 人)への調査をとおして明らかとなった研究者の業績について、研究、産学連携及び研究支援等の観点から、特にその成果が顕著であり、科学技術イノベーションに貢献する注目すべき11 名を選定しました。
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◆選定の対象となった研究の内容を教えて頂けますか。

科学の進歩は経済発展に大きく寄与します。このことは、経済学において厳密に理論化されており、また、経済学者だけでなく、一般の人々も自然に受け入れられる考え方だと思います。しかしながら、科学の進歩は自動的に起きるものではありません。科学者や技術者の創意工夫と不断の努力によって成し遂げられます。したがって、科学者や技術者の選択や行動を分析することは、経済発展プロセスの解明や科学政策に関する有用な示唆に結びつきます。選定対象となった研究では、経済学の観点から、科学者や技術者などのキャリア選択のメカニズムを理論と実証の両面から分析しています。特に、科学者自身の属性と研究機関の制度的要因に着目して、科学者の働く場所(大学、企業/民間研究機関)と科学者の専門分野(基礎科学、応用科学)に関するキャリア選択のメカニズムを明らかにしています。

理論分析では、「人的資本の形成」と「マッチング」をキーワードに分析しています。科学者は人的資本の形成と自分に適している研究環境を考え、そのことをサポートしてくれる研究機関を選ぼうと考えます。一方、研究機関も優秀な科学者を獲得しようと考えます。科学者の労働市場は、結婚市場と同じような仕組みになっていると捉えることができます。それに加えて、民間の研究機関では、基礎科学者と応用科学者のマッチングも存在します。シナージー効果がある場合、属性が似たもの同士がマッチングされることになります。例えば、大学の場合、能力の高い科学者が研究環境で優れている大学にマッチングされます。大学では基礎科学に重点を置いていますので、能力の高い科学者が基礎科学を行うようになります。民間の場合、異なったタイプの科学者間でシナージー効果があるので、能力の高い基礎科学者、能力の高い応用科学者、研究環境で優れている研究機関がマッチングされるようになります。大学と民間の選択は非金銭的要素が決定要因となります。このようなマッチングは賃金プロファイルにも影響を与えることになります。

実証分析では、National Science Foundationが作成した科学者に関するデータベース(Scientists and Engineers Statistical Data System)を使い、計量経済分析を行っています。実証分析から得られた主な結果は、(1)大学の研究機関では、能力の高い科学者が応用科学ではなく基礎科学を選択する確率が高いが、そのような現象は民間の研究機関では観察されない。(2)民間の研究機関で働く科学者と比較して、大学の研究機関で働く科学者は非金銭的要素(社会貢献、知的挑戦、独立性など)に価値を見出している。(3)大学の研究機関の場合、キャリアの初期段階では、基礎科学者の賃金は応用科学者の賃金を下回るが、キャリアの中期段階でその差はなくなり、キャリア後期段階ではその関係は逆転する。(4)民間の研究機関の場合、基礎科学者と応用科学者の賃金プロファイルに差がない。

科学者のキャリア選択は、一見すると何の法則性も存在しないように見えます。しかし、人的資本とマッチングのレンズを通して見てみると、科学者のキャリア選択のメカニズムが浮かび上がってきます。このことが本研究の貢献となっています。

◆今後に向けた抱負を聞かせて下さい。

日本でも高度人材に関するデータが整備されつつあります。日本のデータを使って、産業発展や経済発展における高度人材の役割と貢献についての実証分析を行いたいです。

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unnamed.jpg受賞名:科学技術への顕著な貢献2015(ナイスステップな研究者)
表彰団体:文部科学省 科学技術・学術政策研究所
受賞日: 2016年2月12日
受賞場所:文部科学省

(2016年1月22日)