わたしの一冊 一橋大学教員のお薦めの本
第3回 中野誠(経営管理研究科教授)

2023/06/26

辻井喬(2013.1)
『茜色の空 ―哲人政治家・大平正芳の生涯―』文春文庫

"学生食堂で昼食を終えると、正芳は兼松講堂とは反対の松林の方へ歩いていった。
彼はほとんど毎日、食事を終えると松林のそこここに置いてあるベンチで
何となく午後の授業までの時間を過ごすのが習慣になっていた。"

img_nakano_detail2.png

本書は、このような国立キャンパスの描写から始まります。大平正芳氏は一橋大学(東京商科大学)出身の唯一の内閣総理大臣です。幼少期から、一橋大学時代、大蔵官僚時代を経て政治家として躍動する人生を描いた評伝です。外務大臣時代には日中国交正常化に尽力し、内閣総理大臣になってからは「田園都市構想」、「楕円の思想」など、いくつもの先進的な取り組み、思想を提示したユニークな政治家です。大変な読書家で、人文・社会科学の思想にも通じていたと言われています。香川県から上京し、進路に悩みながら、国立キャンパスで学びを続ける若者の姿が生き生きと描かれています。1930年代の立川、国立、国分寺、三鷹など、本学学生になじみの深い地での活動が印象的です。本書は研究書ではなく文学作品です。感受性豊かな大学生が、それぞれ何かを感じていただければと期待しています。

なお、著者はセゾングループ代表も務めた辻井喬(堤清二)氏です。同氏は本学に隣接する国立学園小学校の卒業生でもあることから、富士見通りの描写などからは、当時の国立の様子も想像できて楽しいかもしれません。

【Information】一橋大学附属図書館

辻井喬(2013.1)
『茜色の空 ―哲人政治家・大平正芳の生涯―』文春文庫

※現在、電子書籍版のみで発売中