一橋大学商学部データ・デザイン・プログラム、1期生、2期生座談会

2023/07/18

商学部のデータ・デザイン ・プログラム(DDP)は、技術とビジネスを情報とデザインで連結できる新しいタイプのデザイン経営者を育成し、イノベーション人材を輩出することを目的とした、「コンピュータ・サイエンス」と「デザイン思考」を融合したプログラムです。参加者は、通常の学部科目と並行して人工知能やプログラミングなどの情報系科目と、 「デザイン経営」や「メディア&サービスデザイン」などのデザイン系科目を学びます。マーキュリータワー5階にあるDDP専用教室は、学生がいつでも気軽にやって来て好きなだけ学習に打ち込めるスペースで、両側面の壁にはアイデアを思いついたときに、自由に絵や文字で書けるよう巨大なホワイトボードを設置しています。

今回は、DDPプログラム1期生の鶴田千織さんとDDPプログラム2期生の上原颯馬さん、馬場健生さんに、このプログラムの概要や今取り組んでいるプロジェクトについて、お話を伺いました。

ーーDDPプログラムを始めたきっかけは何ですか?

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上原さん
入学するタイミングで、DDPホームページの1期生の活動を見て知りました。
商学部に入って何をしようかと考えたときに、このプログラムは面白そうだなと思ったのがきっかけです。DDPに入るには学内選考があるので、1年次の勉強は頑張ってきました。2年生になって改めて、自分が楽しいと思える分野が、このプログラムで学べるので申し込みました。

馬場さん
入学前のオープンキャンパスの説明会で、このプログラムを知りました。
当初はそこまでDDPに入ろうといった気持ちで、大学受験を目指していたわけではありませんでした。ただ、入学して1年生の夏休みの間は、コロナ禍でイベントなども少なくて一人の時間が多かったので、少しプログラミングの勉強を始めて、触っていくうちにプログラミングは面白いなと思うようになったんです。とは言え、やっぱり一人で勉強しているだけだと、受ける刺激も足りなかったりとか、辛かったりすることもあるので、商学部にデータ・デザイン・プログラムがあるのだったら、やってみようかなと申し込んだのがきっかけです。

鶴田さん
入学してから、クラスの友だちにDDPの説明会に誘ってもらったのがきっかけです。
もともと高校生の頃から数学が得意で、データ・統計を扱うこのプログラムで、もう一回やってみたいなという気持ちで入りました。

ーーDDPでの学びと、商学部の学び

上原さん
プログラミングは、商学部のほかの授業とは違う感じですけれど、データとかデザイン思考は、マーケティングと共通するところもあるかなと思います。

馬場さん
DDPでは、デザイン的な思考や手法などを活用していますが、ワークショップでのプロジェクトにおいて今までこうした手法に触れてきたことはなかったので、最初はアイデア出しのときに戸惑いました。共同作業で、「ひとつの答えのない問題」に対して、「形を出していく」という取り組みもありますが、これも商学部の授業でやってきたようなことではないので、苦戦しながらもデザイン的な思考について鍛えているところです。

鶴田さん
私のプロジェクトでは、商品を売るためのマーケティング手法や使い道などを考えています。商学部の授業で学んだ理論をフレームワークとして使いながら、実際の商品を例にして、実践的な使い方やマーケティングを考えています。アンケート調査も行い、得られた数量的なデータから、仮説の実証に取り組んでいますが、仮説とデータとなかなかかみ合わないこともあったので、「データの取り扱い方」と「理論的なフレームワーク」をどのように実践するかというところを、このプロジェクトを通じ学んでいます。

ーーDDP を始めるときに掲げた目標:10年後の自分のひそかな野望/
  専門知識やテクノロジーにさまざまな人が容易にアクセスできる環境をつくること

上原さん
これを書いたのはDDPに入った頃です。当時はデータとかデザイン思考というのは、専門知の方だと思っていたのですが、実際にDDPで学んでみたら、みんなが簡単に扱えるものでした。今はデータとデザイン思考、そういう考えを使って、社会を変えられるような人になりたいと思っています。

ーーDDP を始めるときに掲げた目標:10年後の自分のひそかな野望/
  頼れる大人になること

馬場さん
「頼れる大人になる」と書いたのですが、漠然とした考えで、どういったことをやるかとか、それこそ10年後について具体的に考えたことはありませんでした。今まではやりたいことベースで動いてきたのもあって、未来ははっきりしていなかったのですが、最近DDPで学んでいく中で、ある程度理論的な勉強をしてきたからといって、必ずしもそれがすぐ実務に生きるわけではなく、実務で活かすためには、自分でプロジェクトを動かしてみようとか、自らそういった問題に対して分析をしようとか、学んだ理論をどう活用するかに関する基本的な知識を身につけなければいけないな、というのを痛感しています。今は、社会の中の課題を明確に自分で発見し、その課題に対して、自分なりにアプローチをし続け、ある程度解決できるところまで持っていけるような存在になりたいと考えるようになりました。

ーーDDP を始めるときに掲げた目標:5年後の社会のここを変えたい/
  レジ袋の有料化以降も使い捨てプラスチック製品が後をたたないところを変えたい。

鶴田さん
当時は、環境問題について興味がありました。今も社会に対する問題意識というものは色々ありますが、ただそうやって思っていても、そして、理論や知識だけを身に付けただけでもだめだということが分かりました。 プロジェクトを通じて、実際に行動に移すというのは難しいなというのをこの数年で経験できたのは良かったです。ですが、ただ知識を吸収して問題を認識することが重要なのではなくて、そこからどう実践的に解決に向かえるかというところを、エビデンスベースであったり、客観的なところで、すごく意識できるようになったので、そういう風に社会問題の解決に貢献できればいいなと考えています。

ーーいま取り組んでいるプロジェクトは何ですか?

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上原さん
私はビデオリサーチのデータをもとに、自分たちで何か分析したい問題について仮説を設定して、それを実際にデータを使って検証してみようというプロジェクトに取り組んでいます。ビデオリサーチのデータは視聴率の情報だけと思っていたので、メディア関連に特化したプロジェクトかなと思っていましたが、実際にはメディアだけではなく、マーケティングで使えるような消費者行動や購買意識などのデータもありました。私が所属するチームでは、役割を3つのチームに分けて動いていて、特定の「都市」と「その都市に行く人の性格」の関係について検証しています。まだ漠然としていますが、ゴールとしては都市のブランディングに繋がればよいなと考えています。

馬場さん
私も上原さんと一緒にビデオリサーチのプロジェクトに取り組んでいます。実際に使っているデータは幅広く、基本的なデモグラフィックな情報のほか、日常どの商品を好んで買うか、休日のこの時間帯は何をしているのか、外出しているのか、この街に出かけているのかなどのとても詳細なものです。今やっているのは、その膨大なデータの中で、どういうものが分析に活用できるかを理解するために、プロトタイプの仮説をいくつか用意してから、チームに分かれて、その検証を行っています。

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学会にて、ものづくり班の集大成!

鶴田さん
私は、3年生になってからは、大手電機メーカーが開発している、クローラー型走行ロボットを使ったプロジェクトをやっています。クローラユニットを用いたこのロボットは、ヒトの「運ぶ」「見る」「作業する」という仕事を代替することができ、さまざまな現場での活躍が期待されているものです。このプロジェクトは、メーカーの開発チームと産学協働で、ロボットの新しい用途を生み出せないかというところから始まりました。私たちは大学キャンパスという場所を設定した上で、色んな使い道を考えて、アイデアを出し合い、去年の一橋祭で、15分ほどのロボット体験を通じたアンケート調査を行いました。得られたデータを分析して、私たちが立てた仮説と照らし合わせて形にします。このプロジェクトはDDPの学びの集大成として、一般社団法人日本機械学会の「ロボティクス・メカトロニクス 講演会 2023 in Nagoya」という場で、ポスター発表しました。

ーーDDPの学びを通じて考える、自分たちの未来について

上原さん
大学入学前に持っていた商学部のイメージというのは、もっと論理的で体系的なイメージだったのですが、実際に入って学んでみると、未知の分野とかフワっとしたことも多いです。もちろん社会科学なので、対象は決まり切った客観的なものではないと思うのですが、そういう主観的でフワっとしたものに対して、答えを出していくようなこと、答えがない問いに対して、何か新しく枠を作ってあげるような、そんなことをしたいなと思っています。DDPの講義に限らず、商学部のほかの授業でも教えられたことですけど、学んだフレームワークと構造を実際に使ってみたときに考えられる応用策は多種多様にあると思っています。将来は企業のそういう答えがない問いに対して、サポートするような仕事をしたいと思っているので、いまはコンサルティングを中心に考えています。

馬場さん
最近、ワークショップに取り組んでいますが、商学部で学ぶうちに、特にマーケティングの領域で、ある顧客の心理などフレームワークを使って明らかにしていくという場合について、フレームワークやツールを使ったからと言ってすべて分かるわけではない、ということがわかりました。望む答えがわからなかったりするときに、さまざまなツールを試したり、あとは、デザイン思考のツールを使ったりとかで、すぐには答えがわからない問題に対して何かしらの答えを作っていく作業も面白いなと思っていて、そういった形で世の中の分からない問題というのを解決し、社会に貢献することが素晴らしいなと思っています。ですので、最初はIT系に絞って就活を行おうと考えていましたが、最近は少しコンサルとかも見てみようかなと思っています。

鶴田さん
私は、もともとデータやデジタルをよく勉強をしていたこともあって、コンサルに興味があったのですが、就活をしていく中で、私の根底には社会課題とか、根本的な問題解決というところに取り組んでいきたいという思いがあったので、より俯瞰的な視点で、かつ長期的な問題解決に取り組むことができるほうがいいかなと、今は政府系機関や官公庁などを考えています。

ーー1期生から後輩へ向けてのメッセージ

鶴田さん
私は今までのプロジェクトの活動をロボットの学会に向けて、ポスターにまとめました。その中で、どういう問題提起や背景があり研究を始めていったか、どういう仮説に基づき実証に至ったのかというプロセスを振り返りました。そうした振り返りの中で改めて気づいたのは、仮説が曖昧なまま、とりあえず意識調査などをしてしまい、アンケートの結果から分かったことだけをベースに研究成果を作ってしまったということです。後輩の皆さんにお伝えしたいのは、次のステップに進む前に仮説をちゃんと立てておくと、得られるものがより多くあるということです。

ーー2期生から1期生への質問

上原さん
鶴田さんのプロジェクトは、ロボットの使い方をデザインしていくという感じですが、デザイン的な考え方というのは、DDPに入ってどれくらいで身に付きましたか?

鶴田さん
3Dプリンタのプロジェクトのときは、もうデザインでもデータでもなく、3Dプリンタ機器を使いこなすということでいっぱいで、考えるというよりは、とにかくやってみるということばかりでした。ロボットのプロジェクトに入って初めて頭を使うこととなり、そこでロボットの新しい使い方を考える中で、これまでとは違う視点やニーズについて、多角的にみることを学んだと思います。それがどれくらい身についているかはわかりませんが、貴重な経験になったと思います。

上原さん
ぼくも頑張ります!!

馬場さん
鶴田さん、ワークショップで一番大変だったことは何ですか?

鶴田さん
このチームは、4人でスタートしたのですが、1人が留学に行き3人になり、とにかく作業量が多くて大変でした。ワークショップの1時間半の中では、先生からのフィードバックや色んな意見を聞いて終わってしまって、自分たちで考えるのは、次の週までの宿題になってしまうということが毎週続いて、しかもほかの活動とも両立させなければなりませんでした。ですから、締め切りが迫ってくるとどんどんやることが増えていって、常に追われているという感じでした。どのように乗り切ったかというと、気力でやり切ったくらいしかないんですが。でも3人しかいなかったこともありますが、みんな責任感があり、主体的で積極的に動いてくれていたので、とにかく情報共有して、なるべく仕事を早く終わらすというところを目標に、皆で取り組んでいたと思います。

ーーこれからDDPを考えている下級生へ

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上原さん
ほかにも実践の機会がある学生団体やインターンとかもあると思うんですけど、DDPは学術的で、かつ実践的なところがあります。普段の授業で学んでいるだけだと、実践的な機会はあまりないと思うので、そういう点でDDPに入ってみると視野が広がるのでいいと思います。

馬場さん
DDPに入ってきて、勉強しようっていうモチベーションのある人がいるので、学びの多いグループワークができます。友だちと普段話していても刺激を得られたり、何かをやってみようと思ったときに、自分たちだけだとハードルが高いことでも、大学からの協力などもあるので、チャレンジできます。後輩の皆さんには、ぜひDDPプログラムを目指して欲しいと思います。