わたしの一冊 一橋大学教員のお薦めの本
第6回 青島矢一(経営管理研究科教授)

2023/11/02

マイケル・ポランニー著(高橋勇夫翻訳)(2003/12/10)
『暗黙知の次元』ちくま学芸文庫

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私はこれまでイノベーションの実現プロセスを対象とした研究をしてきました。それは、新たな知識が創造されるプロセスですが、必ずしも事前計画の通り論理的に進むものではなく、むしろ、当事者の個人的な直感やセンス、数多くの偶然の出来事、予期せぬ幸運によって導かれることが多いものです。だからといって「イノベーションは結局セレンディピティだ」といって片付けてしまえば、理解はそこで止まってしまいますし、イノベーションを生む方策を考えることもできません。本書『暗黙知の次元』は、科学者であり哲学者である著者が、「暗黙知」という概念を使って、私たちが、周りの世界を新たな方法で理解し、自らの知識を拡張していくプロセス、つまり、発見や創造のプロセスを理論的に説明したものです。「暗黙知」というと「形式化できない知識」と単純に理解されることが多いのですが、本書で「暗黙知」とは、むしろ「知る、発見する、創造する」というプロセスそのものであり、そこに言葉では表現できない無意識化にある知識が作用しています。学生時代に読んだ本で、知る行為における身体の関わり方や要素還元できない知識の構造など、直接的ではありませんが、その後の研究を考える上で影響を受けました。難解な本なのですが、データサイエンスやAIが叫ばれる時代における人間個人の意義を考えなおす意味でも一読されるとよいと思います。

【Information】一橋大学附属図書館

マイケル・ポランニー(高橋勇夫翻訳)(2003/12/10)
『暗黙知の次元』ちくま学芸文庫