2024/07/04
法人・個人事業主向けのクラウド型会計ソフトを提供しているフリー株式会社(以下、freee)は、アジア地域の「働きがいのある会社」ベストカンパニーに2年連続選出されています。今回は、本学経営管理研究科の西野和美教授、福地宏之准教授が、freeeのダイバーシティの取り組みについて、CEOの佐々木大輔 氏(本学商学部卒業)と常務執行役員・会計申告プロダクトCEO前村菜緒氏にお話を伺いました。
freeeのダイバーシティに共感して集う
佐々木さん
商学部生時代にベンチャー企業でインターンをしていましたが、従業員の女性の割合が多く、彼女たちになぜこの会社で働いているのですかと聞いたことがあります。すると、大企業では女性に対してガラスの天井※1というのがあって、非常に働きにくい。それに比べて、ここのベンチャーであれば自由に働けるし、自分のやりたいことについて、「女のくせに何をやっているんだ」という風に言われずに仕事ができるということでした。私は学生ながらに「なるほど世の中ってそういうものなんだ」と感じた一方で、当時留学したスウェーデンでは、男性に比べて経済や経営を専攻している女性の割合の方が高いんです。新卒で入社したGoogleではマーケティング組織にいたので女性が多いのが当たり前ですし、いろいろな意味でダイバーシティはごく普通のことでした。そういったこともあってか、freeeでもダイバーシティに取り組んでいて、その考えに共感して集まってくれる人は、多様なバックグラウンドを持っています。ですが男女などの属性の差というところでは、従業員の比率や女性の管理職の割合などについても、今後改善していかなければならないと考えています。
福地先生
北欧留学は、交換留学でスウェーデンのストックホルム商科大に行かれたと伺いましたが、そこでオープンな世界を見てこられたのですね。商学部生時代の経験が活きているとお聞きして嬉しいです。
前村さん
スタッフが自分の意見を声にするということに関しても、弊社ではいい流れができていると思います。例えば「全員野球」という言葉がありますね。もともとは部活などで、正選手や補欠、サポーターも一致団結して頑張ろう、という気持ちを表したものです。ビジネスにおいても所属している人間全員が一丸となって頑張ろうという意味で使っているものの、野球の選手のほとんどは男性です。多様性社会の中では価値観の違いから、おかしいなと思う人もいるわけです。同じく、弊社のスローガンをTシャツにプリントするとなったときに、男性だけの写真をプリントしたことがありましたが、やはり一定の人が集まってくると反応する人もいます。それに対して、声を上げてはいけないということはまったくなく、むしろ議論が起こること自体すごくいいかなと思っています。
私はfreeeに入社して10年になります。これまでダイバーシティの活動について、会社から強制されたということはないです。信念を持った人たちが積極的に先頭に立って行動に移すと、自然と周りの人たちに良い影響が伝わって、皆で進めていくという感じです。例えば、弊社の製品に関してもアクセシビリティとかプロダクト内に多様性を考慮した機能を実装していきましょう、と会社から指示がなくてもエンジニアやデザイナーなどが作っていく段階で取り込んでいく、そこからだんだんと会社としてやっていくべき、という流れになります。もちろんコストもかかりますので、そことのバランスを取りつつ進めていきます。
佐々木さん
具体的な話でいうと、インターネット上のソフトウエアは作ろうと思えば、目の見えない人にもちゃんと使えるものが作れます。こういうのは意外と考慮されずに作られていたりするケースが多いです。ですが、ちゃんと作れば誰でも使うことができるようになります。そういったことは普通に生活していると気づきにくいですよね。弊社では全盲のエンジニアが開発をしていますが、人の役立つものを作ろうという情熱を持った人たちが入ってきてくれると、どんどんノウハウが蓄積されていきます。
福地先生
多様なユーザーに役立つ製品を作り上げる際にも社内のダイバーシティが活きているのですね。ただ、さまざまな意見やアイデアが出てくると、それらの取りまとめも大変だと思うのですが、意見を反映する手間やコストなども含め、苦労されたことはありましたか。
佐々木さん
例えば、少数ユーザー向けに何かを作るときは、社内ガイドラインのようなものがあり、それに従い進めていきます。出されたアイデアを全部やるのは大変すぎるから、こういう基準でやっていこうというのもあったりします。スタッフがオープンに意見を言えるから良いものを作れますが、皆が何にでも意見を言える社内環境なので、まとまらないということもあるんですよね。それは製品についてだけではなく、例えば、新しい会社方針や社内規定の変更についてのドキュメントを発信すると、大量の意見とかが来るわけです。そういう意見に対して向き合い、方針についての説明をしていくわけですが、受け止めることもそうだし、噛み締めることもそうだし、しっかりと推定して発信するようにしなければいけないと思っています。それについては、マネジメントコストとして払わなければいけませんが、ただそれ以上に、いろんな新しいアイデアが出てきたり、あと10%、もうちょっと頑張れば上のステージに行けるというような組織的な力に繋がっていくと思います。単なるコストとして受け止めずに、そういう新しいものの力とか、より前に進める力に置き換わっていく、ということだと思っています。
西野先生
一人ひとりの多様性と平等を尊重し、働きやすい職場環境を整えるということと、製品開発の中でアクセシビリティが確保されたものを創り出していくということは、一般的に別々の議論になりがちなのですが、freeeの場合はこれらをトータルでやられているところが素晴らしいと思います。製品開発においても、社内では多様性があるが故にスタッフ間の摩擦であったり、意見の相違などもあったかと思いますが、どのように解決されていったのでしょうか。働きやすい環境から、もしくはアクセシビリティに配慮したものづくりをきっかけにドライブをかけていったなどありますか。
前村さん
そうですね、特に職場環境と製品開発の関係性とかはあまり意識していないですね。製品は、会社のミッションの「スモールビジネスを世界の主役にしたい」ということを中心に考えると、自然とダイバーシティの問題も大事だよね、大事なのであればやったほうがいいよね、というところから発展してきています。
福地先生
なるほど、貴社では自然発生的に進んだのですね。政府は、⼥性活躍推進法における一般事業主が⾏うべき取り組みとして、管理職(課⾧級以上)に占める女性労働者の割合を30パーセント以上と目標を掲げています。おそらく日本の大企業では、政府から何年までに企業の女性管理職を何パーセントと言われて、人事が慌てて動いているという例が多いと思います。それを自然発生的に上手く進められているというのは、素晴らしいことですね。
西野先生
大企業の方々から話を伺いますと、ジェンダー平等だとか、女性管理職を増やす取り組みなどについては、自発的というよりは、手順に従って、やることを順番にチェックしていくような感じだと聞きます。
佐々木さん
そうですね。しかし、本来は一緒に働く仲間の共感みたいなものが大事なんだろうと思っています。
前村さん
大事なのは、いろいろなトピックについて、思い入れがあるとか、そこにドライブしようと動く人がいるということです。それぞれについてドライブしようとか、逆に気付いてはいるけど、そこはまあそんなでもないというものも結構あると思います。例えば、ダイバーシティのアクセシビリティへの配慮は専門家たちの環境の整備をなんとかしたい気持ちがあれば動きますし、LGBTQ+に関する身分の多様性※2は当事者やアライ (Ally)※3からやっていきたいという声があると、自然発生でもかなりドライブされるかなと思います。