わたしの一冊 一橋大学教員のお薦めの本
第13回 安田行宏(経営管理研究科教授)

2024/08/29

浦谷年良著(1998.10.31)
『「もののけ姫」はこうして生まれた』徳間書店

img_blog20240827_01.jpg

この本は、ディレクターの浦谷氏が宮崎駿監督に1年半にわたり密着取材した記録が記された「もののけ姫」の制作ドキュメンタリーです。DVD版(当時はビデオ版3本の合計6.5時間ぐらい)の方が知られているので、ご存知の方もいるでしょう。

宮崎映画といえば、「風の谷のナウシカ」を公開初日に映画館で見て度肝を抜かれたのを今でもよく覚えています。それから「君たちはどう生きるか」までずっと宮崎作品の虜になっていますが、この本に出会ってからは宮崎監督にも強く関心を持つようになりました。今でこそ、作品ごとに宮崎監督の制作ドキュメンタリーが作られるようになっていますが、一つの作品を本格的に密着取材したのはこの本が最初ではないかと思います。

宮崎監督は今やグローバルに最も知られる日本人の一人でしょう。ただ、作品はいつも半径3メートル以内の題材であって「グローバル」という言葉のイメージとはほど遠く感じます。いやだからこそ、世界の誰にとっても関心のあるテーマが根っこにあり、世界中の人々に愛される普遍性を持つのだと思います。

映画を作る過程について、宮崎監督は「創りたい作品へ、造る人たちが可能な限りの到達点へとにじりよっていく、その全過程が作品を創るということなのだ」と喝破しています。良い作品を作ろうとするパワーと、ある種の狂気性に感動すら覚えます。

「にりじよる」制作現場は、今風にいえばブラック企業(?)かもしれません。でも作っている人たちは、誰もがどこかキラキラしています。妥協せずに無我夢中に作品と向きあっているからであり、外から見て「大変だ」というのは当を得ていないようです。

大学教員は研究者として論文を書くのがメインの仕事なのですが、本の中の作品を論文と読み替えると、いろんなヒントや気づきが満載でいつも圧倒されています。大学院生だった当時は、この本(あるいはDVD版)に何度も励まされてきました。今となっては人生のバイブルの一つと言っても過言ではありません。

興味を持った方は是非一度ご覧になってみてください。関心を惹かれる人は「創る仕事」に向いているかもしれません!

【Information】関連情報

「もののけ姫」はこうして生まれた。 [DVD] / ウォルト・ディズニー・ジャパン