一橋大学発 サステナビリティ経営を考える「一橋大学サステナビリティ経営研究会」発足

2024/09/18

去る8月7日に本学千代田キャンパスの大講義室において、新たに発足した一橋大学サステナビリティ経営研究会の第1回研究会が開催されました。冒頭では本学EY寄附講義「サステナビリティ経営」の代表講師を務める、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社の早瀬慶氏より挨拶がありました。この講義は2023年度に新たに開講されたEY Japanによる寄附講義で、同社の各領域の専門家と本学教員により、理論と実務への応用について伝えるとともに、第一線で活躍されている実務家をゲスト講師としてお招きし、より実践的な内容の理解を深めています。

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今回、一橋大学サステナビリティ経営研究会の立ち上げにあたり、発起人である本学経営管理研究科の加賀谷哲之教授からは問題意識として、企業活動においてサステナビリティは非常に重要な課題であるが、企業によっては必ずしも円滑に進んでいないということがあげられました。本研究会の役割としては、こうした取り組みを企業経営にいかに組み込み、持続的な企業価値創造にむすびつけるかについて産官学それぞれの視点から考えるコミュニティーの場にしたいと抱負を述べました。また、もう一つの狙いとして、大学でサステナビリティ経営を学んだ学部生、MBA生に、講義修了後もサステナビリティについて継続して問題意識を持ってもらいながら、実務の場において事業活動や企業経営に関与していくことがとても重要であると話しました。

経済的な成長とサステナビリティの両立を追求するのがサステナビリティ経営ですが、2021年に改定したコーポレートガバナンス・コード※1においても、環境への取組みについてTCFD※2やその同等の枠組みによる管理と開示が求められるとともに、人的資本・知的財産についても開示・監督の重要性が意識された内容となっており、取締役会において真剣に取り組んでいかなければいけないテーマとして位置付けられています。ですが、この環境・社会問題の解決をどのような形で実践に落としていくかが各企業の大きな課題となっています。そこで第1回の研究会では、いち早くサステナビリティ実現に向けた取り組みを行っている、味の素株式会社より理事・IR室長の梶昌隆氏をお招きして、味の素グループの「企業価値向上に向けたサステナビリティの取り組みについて」というテーマでご講演をいただきました。

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梶氏は、味の素グループ創業時の「食を通じた社会への貢献、うま味を通じて日本人の栄養を改善したい」という志には、サステナビリティの考え方が宿っていると言います。味の素では、この「うま味」の成分であるアミノ酸の100年に渡る研究からいろいろな可能性が発見され、イノベーションを起こしてさまざまな事業展開につなげてきた歴史もあります。社会問題を解決し、経済価値に結びつけ、利潤を生みだして、それを再投資してスケールアップしていくというサステナビリティ経営は、創業の志と共にあります。

またCSV※3としては、味の素独自の「ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)事業を通じた社会課題の解決により社会貢献と経済価値の創出」を掲げていて、味の素グループが考えるアミノ酸の可能性を「アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献する」というビジョンに落とし込んでいます。

企業価値向上を支えるガバナンスについても取締役会でどのような議論が行われているかを動画で見える化し、投資家へ分かりやすく伝える取り組みも行っているということです。また、どのように企業価値へ結びつくのかについても定量的に説明して、投資家への説得力を上げつつネガティブインパクトの最小化に努めています。さらに、ASVでイノベーションを起こしていかにポジティブインパクトを生み出していくのか、どのようにステークホルダーに共感いただいて、理解につなげていくのかということに全力で取り組まれているということです。講演後は、各企業の抱えるサステナビリティ推進の課題や実務における具体的な質問が相次ぎ、貴重な意見交換の場となりました。

今後このサステナビリティ研究会は四半期に一度の定期開催が予定されており、サステナビリティ経営の課題解決のための一橋大学発のコミュニティーになることが期待されています。

※1 東京証券取引所では、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめた「コーポレートガバナンス・コード」を定めている。プライム市場・スタンダード市場の上場会社は、コードの全原則について、グロース市場の上場会社は、コードの基本原則について、実施しないものがある場合には、その理由を説明することが求められる。

※2 金融安定理事会(FSB)が設置した「気候関連財務情報開示タスクフォース」(TCFD; Task Force on Climate-related Financial Disclosures)。

※3 CSVとはCreating Shared Valueの略で、日本語では「共有価値の創造」を意味する。 CSV経営は、事業を通じて社会課題を解決することを重視した考え方で、社会課題を解決することが自社の経済的な利益につながる、という概念。

一橋大学サステナビリティ経営研究会
「趣旨・問題意識について」 経営管理研究科教授 加賀谷哲之

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環境・社会をめぐる課題がより深刻かつ先鋭化する中、企業活動そのものにサステナビリティ要素を取り込んでいくことは喫緊の課題となりつつあります。一方で、米国を中心にESG課題が政治問題化し、それを逆行させるような動きも進展しています。こうした状況において、重要となるのは、確証バイアスや群集心理、ゼロリスクバイアスなどに流されず、本質的に重要となるサステナビリティ課題を企業経営の中にビルトインさせ、持続的な企業価値創造に結び付けるべく、粘り強く活動を続けることであると考えます。

こうした経営の推進は、多くの企業にとって重要なテーマであるとともに、それを推進させる役割を担われる役員、担当者の皆様にとっては大きなチャレンジになると考えます。このため、そうした役割を担われる皆様が集まるコミュニティーを立ち上げることに意義があるのではないかと考えています。我々としてコミュニティー先進的な企業におけるチャレンジをご担当者様にご講演をいただいたり、あるいは先進的な学術研究の成果を共有する、あるいは各社が直面している課題を共に考えることで、日本全体のサステナビリティ経営を後押しする必要があると考えております。

また大学にてサステナビリティ経営を学んだ大学生、MBA学生にとっても、それを継続的に学ぶ場を提供することで、継続的に問題意識をお持ちいただき続けることは重要であると考えております。このため、このたび「一橋大学サステナビリティ経営研究会」を立ち上げることにいたしました。四半期に1度程度の開催を予定しております。サステナビリティ経営に関心をお持ちになられている皆様にとっての質の高いコミュニティーを作ることを目指しています。