2024/12/03
秋学期開講の「財務諸表分析」(担当教員・円谷昭一教授)では、企業を分析するうえで有益な情報源となる会計情報の「財務諸表」について理解を深めます。企業を分析するうえで、財務諸表に代表される会計情報はもっとも有益な情報源となります。これまでイメージのみで判断していた企業の姿を、会社情報を通じて覗いてみます。また本講義を通じて、知識はもとよりグローバルな視点や社会的責任の側面からの思考を修得することを目指しています。
10月22日の講義では、ゲスト講師としてヘッジファンドマネージャーの河北博光氏にご登壇いただきました。河北氏は2019年Citywire Asiaが選ぶベスト日本株マネージャー10名の一人にも選出されており、海外の有力な投資家を直接知る数少ない日本株ファンドマネージャーの一人です。今回の講義では、「世界標準の資産の増やし方」というタイトルで、ファンドマネージャーの視点から投資と資産運用の考え方についてお話いただきましたので、講義の内容を抜粋してご紹介いたします。
資産形成における6つの原則―投資を始めなければ何も生まれない
投資において、目標を設定するということがとても大切です。目標を決めることで「(投資は)どういうやり方をしたらいいか」というのが分かってきます。そして、やり方が決まると、このリターンを取るならこのくらいのリスクと、「適切なリスクテイク」を定めることができます。ところが目標が定まっていないと、いろいろと目移りしてしまい過剰なリスクテイクになります。運用を始めるときには、最初に「何を目標にするか」というところから考えてみてください。初めての投資はハードルが高いかも知れません。まずは、短期的な結果にこだわらず、資産を守るために運用してみるとよいでしょう。なぜなら、儲けようとして安易な方法に頼ると本質にたどり着けなくなるからです。儲けている理由が分からないよりも、失敗することで気づき、学びを得ることも多いと思います。
本質を理解して、分散して長期で投資をする
資産形成の基本は、分散・長期・積立ですが、本質を理解しておくことが必要です。資産形成には、「儲けるための投資(短期)」と「護るための投資(長期)」があります。「儲けるための投資(短期)」は個別銘柄への集中投資で不測の事態になったときには、何もなくなってしまう可能性のあるリスクを伴った投資です。かといって、分散投資で儲けた人はいません。ウォーレン・バフェット※1にしろ、彼らの投資というのは分散投資ではなく、少数の銘柄に集中する運用です。またピーター・リンチ※2のファンドには何百銘柄も入っていますが、備忘的に入れている銘柄が多く、実際に儲けているところはごく少数の銘柄に集中しています。
「護るための投資(長期)」は、NISAにおいてのインデックスファンド※3への長期積み立て投資などです。短期の変動は予測が難しい。けれど長期ならある程度合理的に判断ができます。注意点としては、資産運用の基本は「分散して長期積み立て」とよく言われることがありますが、それは株価が上昇している時の株式市場を前提に話をしているだけです。長期で低迷しているときはそういう結果にはなりません。「安く買った、いくらで買ったから儲かっている」ではなく、現時点から株価が上がるか、下がるかが重要で、常に時価で考えなければなりません。これは積み立てでも一括投資でも保有金額が同じであれば現時点でのリスクは同じということです。
また長期投資と短期投資では、業績予想するときの必要な要素が違っています。「短期予想」を「天気予報」に例えると、明日は晴れだが、「気温は何度」か、という予想が求められます。ですが長期予想は、「10年後に地球の気温は上がっている?下がっている?」というような話しです。予想においては長期投資の方が有効になることが多いですが、今良いものがずっと良いというわけではありません。それは産業構造が変化するからです。今から40年前、米国株の中心は製造業・工業、エネルギー、金融で、情報技術はその他という位置づけでした。大学生の皆さんが、今から積み立てて使うのが40年後だとして、その時に今好調な産業構造がそのまま続くというわけではないでしょう。だから産業構造が変わっても自動的についていくインデックス投資の方が、個別投資より良いという人たちもいます。株式投資の運用は、結果としてほったらかしにしていいこともあるのですが、基本的には定期の確認が必要で、つまりは定期的に確認ができないほど多くの銘柄に投資はしない。パフォーマンスの確認、招集通知・運用報告書の確認は、年に1回はしましょうということですね。
皆さんが投資するにあたって、何を考えたらいいか
投資をしない選択肢はあまりないのかなと思います。株式投資のメリットは、株価が動くメカニズムが分かるということと、経営の疑似体験ができるということです。個別銘柄に投資してそこをがっちり見ていくと、この会社の経営者はこういう時にこういう判断をしたんだなと、自分であればこういう判断をするのにと経営の疑似体験ができます。これは株で儲かることとは違った効果があるのではないかと思います。応援したい企業に投資をして、当事者になったつもりで経営を考えてみる。そして、偶然に頼らず自分の「やり方」を見つける必要があります。実際に投資をしてみて、振り返りができたら、反省を生かして新たな銘柄を発掘してみるのも良いですね。そういう風にやってみると自分が面白いなと思うテーマに出合い、企業についてもっと詳しく調べられます。
大学での学びは自分への投資
大学で学ぶことも自分への投資で、自分にどれだけのリターンを生むかということです。例えば、大学に行かずに働いて得られるはずだった利益は、大学に進学した場合には「遺失利益」となります。その「遺失利益」と大学で学んで知識を得てから働いて得られる利益の差がどれくらいかなと考えるとします。日本ではあまり言われないのですが、アメリカの場合は大学で学ぶことについて「学費」と、在学中に働けず得られなかった「遺失利益」を投資額と考えたときに、大卒では大よそ15%くらいのリターンが生まれると言われています。15%というとものすごく大きく、このようなリターンが生涯続くような投資はほとんどありません。資産家になることだけがいいことではないですが、「何へ投資したらいいか」、「そこから何が返ってくるか」ということを人生の中でいろいろ考えていくということは大切かなと思います。
※1 投資会社バークシャー・ハサウェイを率いる著名投資家。
※2 フィデリティインベスメンツの著名ファンドマネージャー。
※3 市場の代表的な指標(国内上場株式であれば日経平均株価やTOPIXなどの株価指数)をベンチマークとし、これら指標とパフォーマンスが連動するようにポートフォリオが構築・運用される投資信託のこと。