みずほ証券寄附講義「企業金融の理論と実務」多彩なゲスト講師陣による講義

2025/04/10

img_blog20250324_01.jpg

2024年度秋冬学期に商学部で開講された「企業金融の理論と実務(みずほ証券寄附講義)」(担当教員:幸田博人客員教授)は、ファイナンス分野の主要なテーマの一つである「企業金融」について理論と実務の両面から学ぶ講義です。金融・資本市場における環境変化が企業の経営・財務戦略にどのような影響を及ぼしてきているのか、企業の財務戦略に密接に関わるプレーヤー(特に、投資銀行をはじめとする金融仲介者)の役割は何か等について、みずほ証券の講師陣による解説のほか、金融・資本市場の最前線に立つ方々をゲスト講師として招聘し、実例を通じて金融のダイナミズムについての理解を深めました。ここでは、4人のプロフェッショナルのゲスト講師による講義を紹介します。


「金融商品取引所の機能・役割」
株式会社東京証券取引所 上場部長 渡邉浩司氏

img_blog20250324_02.jpg

取引所は、資本市場を運営する上で不可欠なインフラであり、プラットフォームです。投資家が金融商品市場にお金を投じることでリターンを得て資産を形成する一方、上場会社は金融商品市場から資金を調達して、生産設備や研究開発に投資し、その果実の一部を配当などによって投資家に還元します。このように資金の出し手と取り手を効率的に結びつける存在が金融商品市場であり、中でも国内最大の東京証券取引所の存在は極めて重要です。東京証券取引所では2022年4月に市場区分を見直し、プライム市場など3区分へと再編しました。その目的は、上場会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を支え、国内外の多様な投資者から高い支持を得られる魅力的な現物市場を提供するためです。現在は、資本コストや株価を意識した経営の推進を企業に促すため、そのフォローアップに注力しています。東証としても単に企業に要請するだけではなく、なぜそれが重要であるかという背景の解説や、取り組みの好事例集の作成など、きめ細かくフォローしています。こうした活動は、投資家からも好評を得ていますが、依然として企業側に知見・リソースが十分ではないケースが見られるとの指摘もあります。東証では、企業側・投資家側双方に丁寧なヒアリングを重ね、今後は「投資者の目線とギャップのある事例」として紹介していく予定です(同事例集は24年11月公表)。

 

「サステナビリティと財務戦略」
株式会社JERA 財務戦略統括部 グローバルIR部 サステナビリティ推進ユニット長 北川啓子氏
株式会社JERA 財務戦略統括部 財務戦略部 コーポレートファイナンスユニット 担当 水野正憲氏

img_blog20250324_03.jpg

電力の安定供給は産業の発展や豊かな生活に不可欠ですが、一方でCO2排出も大きく、日本ではCO2総排出量の約4割をエネルギーセクターが占めています。そうした中、弊社は、東京電力と中部電力の50:50出資のジョイントベンチャー(共同事業体)として両株主保有の火力発電所を承継し、「世界のエネルギー問題に最先端のソリューションを提供する」をミッションに掲げています。また、火力発電の燃料調達から輸送、貯蔵、発電、電力・ガス販売に至るバリューチェーン全体を有し、日本国内の電力の安定供給を支える重要な役割を担っています。さらにLNG(液化天然ガス)取扱規模は世界最大級となっており、地球環境のサステナビリティに重要な責務を負っています。だからこそ、世界最先端のエネルギー・ソリューションを用い、まずは日本において新たなエネルギー供給モデルを構築し、それを世界のエネルギー問題の解決につなげていくことを目指しています。具体的には、燃焼時にCO2を出さないアンモニア・水素への切り替えによる「ゼロエミッション火力」を導入し、35年にはCO2を60%以上削減(13年度比)、50年にはCO2排出ゼロの火力発電を実現する国内ロードマップを掲げています。特に、エネルギーの安定供給という社会的使命を果たしながら、カーボンニュートラルに移行していくことが重要と考えており、その実現のための資金調達手段としてトランジションボンドなどのサステナブルファイナンスを活用しています。サステナブルファイナンスは判断指標として、財務指標と非財務指標(環境データ)の双方を採用し、企業価値向上に向けた取り組みを明示しています。

※ 脱炭素社会の実現に向けた資金調達のために発行される債券。低炭素経済社会への移行(トランジション)を目的としており、サステナブルファイナンスの一種。

 

「アセマネビジネス全体像と運用会社の取り組み」
アセットマネジメントOne 株式会社 取締役社長 杉原規之氏

img_blog20250324_04.jpg

資産運用ビジネスは、運用会社が顧客から預かった資産を企業、国・地方自治体等に投資し、得られたリターンを顧客に還元する金融事業で、欧米を中心に発展してきました。日本では近年、政府が"資産運用立国"を掲げ、24年にNISA制度の改正などが行われたことにより、急速に投資信託の運用残高が増加しています。運用会社は、資金の出し手と投資先企業の双方に関わる立場にあり、より良い資産運用立国の実現に重要な役割を持ちます。弊社では、お客様のニーズに合わせた多様な商品開発を行うとともに、サステナビリティを考慮した投資体系や投資先企業との対話を重視するスチュワードシップ活動を強化しています。今後も、投資を通じて企業の成長、そして環境・社会、さらに人々の生活の向上という好循環を生み出す原動力となるべく取り組んでいきます。

 

「社会課題とスタートアップ投資」
Beyond Next Ventures株式会社 代表取締役 植波剣吾氏

img_blog20250324_05.jpg

スタートアップの多くは、新しい技術やビジネスモデルによって既存の企業が解決できていない社会課題を解決することで事業の拡大を目指しています。そうしたスタートアップによるイノベーションをエクイティの面から支えるのがベンチャーキャピタルで、近年、日本においても投資額が大きく拡大しています。ベンチャーキャピタルは、機関投資家や金融機関などから資金を集め、スタートアップ企業に投資。その企業が成長しIPOあるいはM&Aを行うことでキャピタルゲインを得て、機関投資家など投資サイドに利益を分配します。スタートアップの資金調達手段は、その成長ステージにより変わります。起業前には公的機関からの補助等も活用しながら、会社設立時はまず個人の資金を元手に事業化を進め、ある程度事業の将来性・成長性をアピールできるようになるとベンチャーキャピタルなどからの資金調達も可能となります。そして具体的に製品ができて顧客がついてくると金融機関からの借入、業績がさらに拡大すると株式上場による資本市場からの資金調達が可能となり、こうして調達した資金を活用することでより大きな社会課題の解決に取り組みます。Beyond Next Venturesは、ベンチャーキャピタルとして15年に創業しました。大学等で長年研究されてきた革新的な科学技術への投資とその商業化の実現により、社会課題を起業家と共に解決すると同時に、次世代の科学技術への資金循環を促し、その発展にも貢献したいとの思いが背景にあります。特にディープテックスタートアップが成長しやすいエコシステムの構築を目指しています。これからの日本経済や社会にとって新しいイノベーションを生み出し社会課題の解決につながるように、金融面からサポートしていきます。

※科学的な発見や革新的な技術に基づいて、世界に大きな影響を与える問題を解決する取り組み