スタートアップとIPOの理論と実務(みずほ証券寄附講義)/第5回「スタートアップの経営戦略」ゲスト講師 株式会社インフキュリオン代表取締役社長CEO丸山弘毅氏

2025/09/10

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商学部では昨年度に引き続き、「スタートアップとIPOの理論と実務(みずほ証券寄附講義)」において、学外の有識者や実務家のゲスト講師を交え講義を行いました。講義は全7回で構成されており、担当教員である安田行宏教授(経営管理研究科)とみずほ証券株式会社 グローバル投資銀行部門資本戦略アドバイザリー部部⻑の沖島章浩氏がメインの講師を務めました。第5回講義の前半では、みずほ証券株式会社 イノベーション企業戦略部ディレクターの小川久範氏より、スタートアップの経営戦略と事例紹介がありました。また、起業家の実体験を聴く意味について、その起業家の成功要因を真似できなくても乗り越えた経験や知見・ノウハウを学ぶことができるとアドバイスもありました。後半では、株式会社インフキュリオン代表取締役社長CEO丸山弘毅氏より「スタートアップの経営戦略」というテーマで、起業するにあたり、どのような苦労や困難があり、それをどうやって克服し、なぜ乗り越えられたのかといったご自身の経験についてご講演いただきました。


決済の単なるデジタル化ではなく、金融のデータや金融の中心がシフトするような可能性

私の会社は2006年創業でキャッシュレスの技術基盤を提供しており、「決済」の仕組みを活用して新しいことをどんどんやっていこうという会社です。科学的な発見や革新的な技術をもとに社会課題の解決を目指す技術領域でやっていて、コストの改善やデータを整えて決済関係が上手くいくようにしています。当社の具体的な事例には、身近なところではB2C(B to C)向けにペイやクレジットカードの新しい仕組みを導入したり、システムの根幹を支える技術基盤の提供などがあります。例えば、学生の皆さんも利用しているであろうコカ・コーラのCoke ON(コークオン)やタクシーの後部座席にタブレットを設置したGOという会社の決済のインフラを整えたりもしています。

これまでの「決済」では銀行口座にあるお金で払いますとか、決済アプリなどにチャージ、クレジットカードでの支払いとかで基本は銀行口座から支払うことを指していました。ですが、最近のB2B(B to B)の契約や請求書の話などでは、デジタル化により口座にお金が入る前のプロセスをデータとして収集しています。例えば、建設業などであれば、大きなビルの建設の工程をタブレットなどでプロセス管理をしているとして、今日の時点でビルの何階くらいまで工事が進みましたね、と見える化しています。そうすると、ビルが完成したら100億円払おうと思っていたけど、「ビル全体の5割まで工事が進んだので50億円を払ってもらいましょう」というのを分かってもらえるようになっています。これまで銀行口座の残高が一番信用力が高い情報だった時代から、銀行口座に入るお金のプロセスデータに価値が移ってきています。こうした流れを受けて、データを貯めるSaaS(Software as a Service)サービスなどに、新しい起業家たちが進出してきています。当社ではこのサービスとAPI方式 (Application Programming Interface)をつなぎ、これから入ってくるであろうお金をすぐに使えるというサービスの開発に取り組んでいます。将来何にお金を使うのかが分かればB2B、B2Cを問わず、マーケティングの予測精度が極めて高くなり、お金をもらう前のデータから、お金を使うまでをキャッシュレス、デジタルで見渡せるようになってきます。このキャッシュレスシステムの構築により消費行動もデジタル化すると、金融の流れまで変わっていくでしょう。このようなことをインフキュリオンでは取り組んでいます。

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起業を検討されている方へ
―天才でもカリスマでもない人間が起業して、数々の困難に直面しながらもチャンスを掴んできた

起業をする時にたぶん一番悩むのは、「どのテーマを選ぶか」ということではないかと思います。どの市場で戦うのかというよりも、中長期で見たときに世の中どういう構造的変化があって、どのテーマで勝負をするのかということだと思います。私の場合は起業する前の新卒の頃から、ほぼ同じ領域に取り組んでいます。私が新卒の頃は、インターネットがやっと出てきたところでキャッシュレス決済はほとんどなく、サイバー空間とリアルの空間が生まれて、グローバルな取引も加速していくだろうという時代です。新たな時代を迎えて、今後、最も世の中の変化に大きく寄与するような業界って何だろう?と考えた時、私が注目したのが、当時の貨幣のデジタル化のような考え方でした。将来、何十年後の未来は、キャッシュレスの時代が間違いなく来るだろうと逆算していましたし、それが実現した時にどう動くかという観点を持ち、そして自分が人類の発展を牽引していきたいという発想でこの業界を選びました。こうして、私の会社は創業して約20年で徐々に進化してきました。

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私は決済分野という比較的重めのインフラの業界へ入ってきましたが、じっくりと階段を登り、積み上げてやってきました。仲間4人でスタートアップを立ち上げ、まずはプロダクト開発から着手しました。ですが起業した数カ月後、リーマンショックで予定していた資金調達がすべて白紙に戻りました。その時に始めたのがコンサルティングの仕事です。コンサルティングという既存事業を持ちながらも急成長を目指すソリッドベンチャーというのをやっていました。そして、やっとチャンスがやってきたのが5年後くらいです。起業当初はコンサルティングの仕事から始めたので売り上げも利益も出ました。利益を出してプロダクトを作って、そこから一大投資をします。数億、数十億円と赤字を出していくという感じになりますが、一度決めたら撤退はできないので次々と新しいプロダクトを作っていきました。プロダクトを作り出すうちに着々と知見が豊富になってきます。そこからの新しいプロダクトづくりが非常に良いサイクルになってきて、今ではこれをB2Bまで広げようとか、金融機関までもが我々のプロダクトを使いたいというレベルにまで成長してきました。こうして徐々に会社が大きくなってくると、非上場ながらも社会的な存在となり、しっかりとした経営をやっていかなきゃいけないと思っています。はじめは仲間内だけの会社でしたが、今では従業員も350人くらい、その内4割くらいはエンジニアです。天才でもカリスマでもなく、少し時間をかけながらでも着実に伸ばしてきました。こうした経営のやり方が、皆さんの参考になれば幸いです。私は新卒で大企業に一旦入りましたけど、今思い返してみると初めから起業をしようかと悩んでいるのであれば早く始めた方がいいです。やろうかどうか悩んでいるのであれば、「やる」が正解だと思います。これまで山あり谷ありと、つぶれそうなこともありましたけど、悩んでいるならまずチャレンジしてみてください。そこでの経験がきっと皆さんの大きな力になると思います。

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講師プロフィール:

株式会社インフキュリオン
代表取締役社長 CEO
丸山 弘毅氏

(主な役職)
株式会社リンク・プロセシング 取締役
株式会社インフキュリオン コンサルティング 取締役フェロー
株式会社ネストエッグ 取締役フェロー

(経歴)
慶應義塾大学商学部卒業後、株式会社ジェーシービー入社。信用管理部門・マーケティング部門を経て、新規事業開発・M&A部門の設立メンバーとして参画。2006年インフキュリオンを創業し、グループの経営戦略、新規事業を担当。 2015年一般社団法人Fintech協会を設立し代表理事会長に就任(現 エグゼクティブアドバイザー)。業界発展・法改正などに貢献。日本のキャッシュレス推進に向け実務・政策の両面から貢献。