異文化の中で人としての成長を実感する
2025/10/30
ザンクトガレン大学(スイス)留学 2024年9月〜2025年5月
渋沢スカラープログラム10期生
私は、自身がハブとなって日本と世界を繋ぎ、新たな価値を創出するという将来の目標を実現するために、実際に海外で多様な価値観に触れながら生活し自身の適応力を鍛えたいと考え留学を決意しました。
ザンクトガレン大学はスイスの東部に位置しており、その規模は小さいながらも経営や金融などのビジネスの分野において高く評価されています。文系学部が中心であるところも含め、一橋大学に例えられるでしょう。かねてより、永世中立国であるスイスに興味を持っており、ビジネス系の授業が充実した大学を探していた私にはまさに理想的な留学先でした。
留学への熱意は高い私でしたが、今回が初めての留学ということもあり不安要素はたくさんありました。しかし、渋沢スカラープログラム(SSP)を通じて、2年次から英語で講義を行う商学部科目を留学生たちと一緒に受講し、さらに同時期に留学に臨む仲間との関係性を構築するなど、出発前に不安を減らすことができました。また大学の交換留学制度を通じて利用できる奨学金が充実していたことも、世界トップレベルの物価の高さを誇るスイスへの留学をかなえる上で大きな助けとなりました。
留学先では、より現地の人々の文化に触れたいとの思いから、大学の学生寮ではなくFacebookで見つけたシェアハウスで生活することを選び、昼は大学で授業を受け、夜は現地チームでバレーボールに取り組む日々を送りました。最低賃金が4000円を超えるスイスでは、物価も日本の3倍から4倍です。そのため食事量の多い私は節約のために基本的に外食をせず、若者向けの交通系パスを駆使しながら週末はアルプスのハイキングを楽しみました。パターン化されたシンプルな生活ですが、大変充実した毎日を過ごせたと思います。
また私は体育会のバレーボール部を休部してまで留学したので、現地で結果を残し成長した姿で帰国したいとの思いから、現地の社会人チームに入団しました。平日夜に練習し、休日は試合やチームイベントの運営の手伝いも行ったので、留学中最も時間を費やした活動だと思います。現地人のフィジカルの強さや、チーム内の言語であるスイス訛りのドイツ語の難しさには大変苦労し、信頼の獲得にも長い時間を要しながらも約半年間続く国内リーグを戦い抜いたことはかけがえのない経験になりました。
今回の留学では、さまざまな経験を通じて本当にたくさんのことを学びましたが、その中から二つの学びをお伝えします。
一つ目は、他人をまねるだけでなく、逆に異なることを生かして自分の価値を高め、貢献することによって周りから受け入れられるということです。
郷に入れば郷に従えというように、私はヨーロッパやスイスの文化や現地人のやり方などを最大限リスペクトして生活していました。多くの場面ではそのリスペクトが相手に伝わり、受け入れてもらえていました。しかし、バレーボールで信頼を勝ち取るには、リスペクトだけでは不十分でした。外国人だからといって排斥されるようなことはもちろんなく、チームメイトは皆いい人なのですが、190cm近い平均身長のチームの中では小柄でパワーもなく、ドイツ語も話せない新参者の私は信頼を獲得するのに苦労しました。彼らの高さやパワー重視のバレーは一年では到底追いつけないと痛感した私は、あえてそのスタイルをまねず、日本で培ってきた守備や細かい技術を重視するプレースタイルを全面に押し出して、チームの抱える課題に対し自らが解決策になろうと努めました。そして試合で劣勢の場面で仲間の期待に応えるなかで少しずつ信頼をつかみ、チームの一員としてリーグ昇格に貢献することができました。彼らのやり方をまねるだけではなく、身体的特徴や持っている知見の違いを生かしたことで、うまくいったことは大きな自信となりました。
二つ目は、永世中立の裏側についてです。スイスといえば永世中立のイメージはありましたが、それは単に政府が国際的な中立を宣言するだけではなく、平時から徴兵制度を通じて一定の軍事力を保ち、一人一人の国民が政治に関心を持って国民投票に参加するといったスイス人の長期的な努力の積み重ねによって維持できているのだと感じました。バレーボールのチームメイトの一人はシーズン中に離脱して兵役に就くことになりましたが、国のためにやり切ると気を引き締めており、チームとしてもそれを応援し後押しする空気でした。シェアハウスに住んでいたスイス人は、小さな法案でも自分なりに情報収集をして、必ず国民投票に参加していました。私も日本人として平和に暮らしたいと願っていますが、それを実現するためには理想を語るだけではなく日頃からの行動の積み重ねが重要なのだと思います。
留学に行くことは簡単な決断ではありませんが、少しでもそれを経験したいという気持ちがある人は思い切って挑戦するべきだと思います。留学先では困難な状況に直面することが間違いなく増えますが、後から振り返れば自身の成長のきっかけになったと前向きに捉えられることがほとんどです。不安要素は多いものですが、大学が手厚くサポートしてくれるので、実際のハードルはあまり高くないと感じます。社会人になってからも海外転勤やMBA留学などで外国で暮らすことはあるかもしれませんが、大学生のうちからその挑戦を支援してもらえることは大変恵まれていると思います。ぜひ一歩踏み出してみてください!