「簿記システム」ゲスト講師:株式会社京王アカウンティング取締役 村上公彦氏/鉄道会社における経理部門の役割

2025/12/01

秋学期開講の「簿記システム」(担当教員・円谷昭一教授)は、企業会計の記録システムである複式簿記について学ぶもので、財務会計や管理会計に関する発展科目を学ぶための基礎となります。本講義では、簿記の記帳方法を身につけるとともに、簿記と関連するさまざまなトピックにも触れていきます。

10月9日の講義では、ゲスト講師として株式会社京王アカウンティング 取締役の村上公彦氏にご登壇いただきました。村上氏は2000年に本学社会学部を卒業。京王電鉄株式会社に入社し、経理部に配属され、京王電鉄の決算、税務、資金調達、連結決算等をご担当されてきました。2022年からは株式会社京王アカウンティングの取締役に就任、アカウンティング事業部長、ファイナンス事業部長、業務改革推進室長を兼務されています。今回は京王沿線を主な事業基盤として、交通業、不動産業、ホテル業、建設設備業、生活サービス業の各事業を展開する京王グループ、そして、その事業を会計・財務面から支える京王アカウンティングの「鉄道会社における経理部門の役割」というテーマで会計処理の具体的な例を基に、鉄道事業での特徴的な会計ルールについてお話いただきました。講義の内容を抜粋してご紹介いたします。

鉄道事業、不動産事業、ホテル事業等に渡る京王グループの経理の実務

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はじめに、鉄道事業会社の組織における経理部門で、実務では会計がどのように行われているのかというところをぜひ皆さんにご紹介したいと思っています。京王電鉄の経理部は、経営統括本部の中にあります。そのほか京王電鉄の事業部門としては、鉄道事業本部と、不動産事業やホテル事業を管轄する開発事業本部があり、それぞれの事業部の中にも「計画管理部」や「開発企画部」など計数管理を行う部門もあります。各事業部での数値を集めてきて、最終的な取りまとめをしているのが、経営統括本部にある経理部になります。経営統括本部の中には「経営企画部」「グループ事業部」などがあり、会社全体、グループ全体の経営戦略を検討する部門の一つとして、経理部が位置づけられているという体制です。さらに経理部の中でも決算担当(単体決算・固定資産管理)、連結担当(連結決算、開示)、予算税務担当(税務、経理課題対応)、資金担当、IR担当、資材担当など、それぞれの役割が分かれています。そして、経理部と連携して、京王グループ各社の様々な経理実務を私が所属する京王アカウンティングが各社と協力して担っています。

鉄道事業の会計処理/P/L(損益計算書)とB/S(貸借対照表)

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経理部門に上がってきた伝票が適切な勘定科目か、金額も含めて会計処理が正しいかなどを審査して、必要な支払処理を行い、その取りまとめとして決算業務を実施し、最後に財務諸表を確定させるというような流れで仕事を行っています。鉄道事業会社には「鉄道事業会計規則」という会計規則が適用されており、それに基づいて財務諸表を作成しています。この鉄道事業会計規則の中では、鉄道事業とそのほかの事業とを分けて管理しなさいとされています。一般的な財務諸表の場合、記載するP/L(損益計算書)は、内訳としてのセグメント情報はありますが、あくまで全社でいくら収益を上げて、いくら営業利益が立ったかというのを記載します。ですが、この鉄道事業会計規則に関しては、必ず鉄道利益を別記して鉄道事業としていくら、その他の事業でいくらといった形のP/Lを作りなさいとなっています。

また、B/S(貸借対照表)についても鉄道事業ならではの会計ルールがあります。固定資産について、一般的には土地や建物など種類別の科目として列記をしていますが、鉄道事業会計規則においては事業別の資産を計上することが定められています。鉄道事業でいくら、付帯事業でいくらというような表記です。また、このほか特徴的な科目として、未収運賃は、チャージ金などのように、他社で入金された自社の収入に係るもので、まだ入ってきていないお金などを計上します。逆に、他社も含めた定期券を販売した時に、先方にお金を渡さなければならないので、それは預り連絡運賃という科目で処理をするような鉄道事業特有の勘定科目もB/Sの中にはあります。

鉄道事業の会計処理/取替資産に係る償却方法

鉄道の固定資産の中には、取替資産という種類があります。この取替資産に当てはまるものとして、鉄道事業固定資産のうち、線路及びその附属品、まくら木などがあります。これらの取替資産の減価償却の処理については、特徴的な経理処理を行っています。一般的な会計処理としては、時間の経過とともに価値が減少する固定資産の取得費用を、その資産の耐用年数に応じて残存価額まで費用計上を続けていくというのが減価償却の処理ですが、鉄道事業の会計としては、取替資産の減価償却は取得価額の50%に留めることが定められています。ただし、同じ品質の新しい取替資産(まくら木や線路など)に取り替えるときには、それを再び固定資産に計上するのではなく、当期の費用として取替修繕費という形で費用処理する、という定めになっています。主に公共性の高い事業に関して、こういった取替資産が定められており、他の固定資産では見ない、特徴的な償却方法となっています。

経理部門として目指すべき姿

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私は、一橋大学 CFO教育研究センターの一橋大学財務リーダーシップ・プログラム(Hitotsubashi Financial Leadership Program, HFLP)にも参加しました。その中で同センター長の伊藤邦雄先生(本学名誉教授)が述べられているのが、「経理部門として目指すべき人材像というのは、企業経営の中核人材としての財務リーダーである」ということです。経理では、会計処理や税務処理という専門的なところに視線がいってしまいがちですが、会社全体でどういうことが課題になっていて、どういうことをやっていくべきかを考えることが重要です。経理人材として知識、能力を蓄えていき、会計処理に詳しくなるのも必要ですが、それのみならず、もっと視野を広げて会社全体のことを見るのも必要だと考えています。