秋冬学期「サステナブル・ファイナンスの理論と実務(みずほ証券寄附講義)」~社会的責任と経済的合理性の両立を目指す

2026/02/17

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今年度秋冬学期において開講された「サステナブル・ファイナンスの理論と実務(みずほ証券寄附講義)」は、本学商学部・熊本方雄教授に加え、みずほ証券株式会社より、森下修氏(サステナビリティ推進部長)と香月康伸氏(サステナビリティ推進部ディレクター、シニア・サステナビリティ・ストラテジスト、京都大学経営管理大学院客員教授)を迎えて行われました。

「サステナブル・ファイナンス」は、一部の先進的な取組みではなく、すでにニューノーマルとなっています。自社のサステナブル・ストーリーを前面に打ち出して資金調達を目指す企業や、ESG投資を積極化し社会・環境へのポジティブインパクトを志向する投資家、その結節点としての役割を担う投資銀行などのプレーヤーにおいては、サステナビリティはビジネスの中核となっており、今後もそうした状況は続くと考えられます。

そうした中、本講義においては全13回の授業を通じて、サステナブル・ファイナンスの概論のほか、投資家や資金調達者としての企業、政府など多角的な視点で各テーマの考察を深めました。本記事では、その一部(講義全体図の青色枠線内)を紹介します。

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第2回「サステナブル・ファイナンス概論」

みずほ証券サステナビリティ推進部ディレクター、シニア・サステナビリティ・ストラテジスト、京都大学経営管理大学院客員教授・香月康伸氏

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「ESG」は、2000年に国連が持続可能な成長を目指す世界的な枠組みとして示した「グローバルコンパクト」を契機に、「責任ある投融資」という考え方として金融の世界に浸透してきました。ESG投資の本質は、投資家と企業がエンゲージメントを通じて信頼関係を築き、持続可能な社会を目指す点にあります。その投資手法は、ネガティブスクリーンによる投資対象の選別や、財務リターンを得つつ社会にプラスの影響力を行使するインパクト投資、資金使途や数値目標を明確化したボンドなど多様化してきています。近年は、ESGに対する揺り戻しが話題となることもありますが、異常気象や生態系崩壊に関する科学的知見を踏まえると、持続可能性への取組みは不可欠であり、金融と企業のエンゲージメントサイクルが果たす役割は極めて大きいのです。

第5回「GX経済移行戦略とクライメートトランジション(CT)国債」

「日本政府のGX戦略」
GX推進機構 理事・高田英樹氏

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日本におけるGX(Green Transformation)政策では、2050年までのカーボンニュートラルと、産業競争力強化・経済成長の同時実現を目指しています。政策の柱として、世界初のトランジション国債として「GX経済移行債」(CT国債)を発行するとともに、「GX推進機構」を創設し、民間による社会実装段階のリスクの補完策を講じています。また今後は、同機構が運営を担う排出量取引制度等を通じてGX関連製品・事業に付加価値を付与する成長志向型のGX施策をより強力に推進していきます。脱炭素社会への移行は一足飛びには進まず、より現実的なアプローチとして「トランジション・ファイナンス」が重要であり、そうした資金を着実に社会実装に生かす重点分野別のロードマップを策定しています。こうした日本政府の取組みは、欧米からも注目されています。

「川崎重工のサステナブル・ファイナンスの取組みについて」
川崎重工株式会社 管理本部財務部ファイナンス課長・沼毅氏

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川崎重工では、サステナビリティに資する投資のための資金調達である「サステナブル・ファイナンス」を積極的に活用しています。その背景には、サステナビリティは倫理や社会貢献としての側面だけから捉えるのではなく、企業の成長のための投資として取り組むべきであるとの考えがあります。当社では、水素利用や、排ガス中のCO2の分離・回収の技術開発などを進めており、こうしたカーボンニュートラルに向けた事業の資金調達をサステナブル・ファイナンスを通じて行っています。また、資金調達以外の効果として、自らが魅力的な投資先であり続けること(Keep us invested)や、役職員のモチベーション向上(Heat us for the goals)、そしてグループビジョンの認知度の向上(Introduce us to stakeholders)も期待できます。

第7回「ソーシャルボンドの実例」

「日本学生支援機構のソーシャルボンド~ソーシャルボンドを通じた学生支援」
独立行政法人日本学生支援機構 財務部次長・大下勝俊氏

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「ソーシャルボンド」とは、教育や医療などさまざまな社会的課題に対処するプロジェクトを資金使途とする債券であり、国際機関により発行目的やプロジェクトの選定プロセス、資金管理、レポーティングに関するガイドラインが制定されています。日本学生支援機構は、高等教育機関で学ぶ学生・生徒向けの貸与および給付奨学金により多くの学生・生徒を支援しており、その財源の一部としてソーシャルボンドを発行しています。投資家は、この日本学生支援債券への投資を通じて、次代の社会を担う豊かな人間性を備えた人材の育成に貢献できるとともに、インパクトレポートによって貸与人数や対象校などの実績を確認することができます。こうした社会的意義や透明性に加え、1,000万円という購入単位や2年という短い年限など手軽な商品性から、投資表明件数は1,000件を超えました。投資企業が自社の投資を発信することで、教育の重要性をより広く社会に浸透させる効果も期待できます。

第10回「長期投資家から見たサスティナビリティ経営とESG/インパクト投資」

コモンズ投信株式会社 代表取締役社長・伊井哲次朗氏

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従来のESG投資がリスクとリターンを軸に、企業の過去の行動をネガティブスクリーンする側面が強かったのに対し、「インパクト投資」は社会的なインパクトを加味し、事業活動が将来生み出す社会的アウトカムをポジティブスクリーンすることを重視します。こうした社会課題を解決する投資が今後増えていくと考えています。コモンズ投信の運用事例では、30年という超長期視点に立ち、株価以上に企業価値を重視して30社を厳選。投資先との直接対話では、競争力の源泉や企業文化といった「見えない価値」を評価しています。また、いかに社会課題に取り組むか、投資先企業とともに考える投資姿勢で臨んでいます。企業の本気度はAIで測ることはできません。共に創ることが大切と考えています。

第13回「資本主義とサステナビリティ」

「日本経営の資本主義の使い方はこのままでいい?」
みずほ証券株式会社 グローバル投資銀行部門業務推進部長、サステナビリティ・エバンジェリスト・清水大吾氏

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資本主義の根本原理は、所有の自由と自由経済です。しかし、そこには競争に勝つことを目的化したり、「会社の神聖化」や短期主義といった弊害も生まれています。これを克服するためには、「今だけ、自分だけ」という考えから「次世代も、周りも」へと発想を転換し、それにより資本主義を「使いこなす」ことが重要です。つまり、「道徳のある資本主義社会」を目指すのです。個人レベルでは、例えば、A社製の牛乳は安いけれども環境問題や労働問題を起こしている一方、B社製の牛乳は高いが環境や人権に配慮しているとしたら、B社製を選ぶという一人ひとりの購買行動の積み重ねが社会を変える力になります。また、企業においても自社の成長だけではなく、多様なステークホルダーと価値を共創することが大切です。