商学部の春学期「特別講義(スタートアップの資本政策)」(担当教員:安田行宏教授、熊本方雄教授 代表講師:株式会社ストライク代表取締役社長 荒井邦彦氏 )では、本学卒業生のスタートアップ企業代表者8名をゲスト講師として迎え、事業を始めた際のエピソードや、その後の成長をいかに実現したかなど、起業家ならではの話を伺いました。それぞれ現在は上場し、さらなる発展を目指すビジネスリーダーからの珠玉のメッセージをまとめました。
進化を続ける組織作り
「多様性のある組織では、むしろ共通点を意識する」
「多様性が組織の変化を起こし続ける」
参加者が均質な組織では、他人との差に敏感になり、出る杭を打つような文化が生まれ、進化できないという悪循環に陥りがちです。一方、組織が多様化すると、他人との違いが気にならなくなり、むしろ共通点を積極的に探すようになります。そして、共通点以外のことは気にしない雰囲気が、新しいことへの挑戦を肯定的に評価することにつながります。そうした多様性を組織の文化として根付かせることにより、50年100年後の未来においても会社は進化し続けることができます。
「創業12年で、一度振り返り、自分たちのアイデンティティを言語化」
起業して以来、創業メンバー5人のキャラクターが融合して会社のカルチャーができてきましたが、創業12年目の時にそのカルチャーを言語化しました。自分たちはどのような会社か、何を目指しているのか、どのような人と共に仕事をしたいのか、改めて考え、コーポレートスローガン「Hello world, Hello innovation」が生まれ、行動規範である「5つのDNA」を明確化しました。こうしてアイデンティティを言語化したことで、より強いカルチャーを持てるようになりました。
「ともに仕事をする人に求めるのは、会社のDNAへの共感」
当社に入社する人に最初に伝えるのは、私たちの「5つのDNA」、すなわち行動規範です。それに共感する人とともにDNAに根差した強いカルチャーを持つ組織にしていきたいと考えています。共感できない方には入社いただかなくても結構というくらいに重視しています。DNAへの共感以外は、国籍や性別、年齢、学歴、職歴など一切関係なく、当社の中長期の成長に貢献してくれる社員が最大のチャンスを得られます。多様性の中で、5つのDNAへの共感が共通点となっています。
「会社の価値基準を毎年、社員全員で問い直す」
会社の価値基準を毎年、社員全員で問い直すことで、会社から単に与えられた価値基準ではなく、社員一人ひとりがオーナーシップを持って考えられるようになります。また、議論することで、価値が言語化され、語り継がれるようになります。ただし、それらを具体的にかつ楽しくやることが大切です。例えば、当社では3月19日を「アウトプット志向の日」としていますが、実はそれは創業日で、創業初の商品である確定申告用ソフトが、その年の確定申告の締切3月15日に間に合わなかったという出来事を、今では楽しく振り返る日となっています。
ビジネスの心得
「答えはお客様にある」
「もし顧客に彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬がほしい』と答えていただろう」(ヘンリー・フォードの名言)
当社は何度も危機に直面し、その度に業容を大きく変えてきましたが、どのようなビジネスを行うかという問いの答えは常にお客様の中にありました。何か大きな社会課題に取り組むというよりも、お客様一人ひとりのニーズをよく聞き、現実とのギャップの中にビジネスの芽を見つけるのです。しかし、同時にお客様が望むものをそのまま提供するだけでは不充分です。例えば、自動車会社フォード・モーターの創設者ヘンリー・フォードの名言が物語るように、馬しか移動手段を知らない当時の人々に馬以外のもっと早い「移動」を提案することで、彼はより大きなビジネスチャンスを獲得したのです。お客様の声を聞きながら、背後にある真のニーズを捉えることが大切です。
「理論と現実の乖離」
これは、スタートアップではなく当社が手掛ける事業再生の話ですが、事業が不調な会社は、どこかに不具合なところがあり、それを当社が見つけて改善策を提案しています。しかし、理論に基づくそうした改善策がなかなか奏功しないことがあります。それは、現場が落ち込んでしまっていることや、何にも増して経営者のマインドが落ちてしまっているからです。経営者のやる気というものは、優れた経営の大きな要素なのです。
「上場により会社のステージが変わる」
上場により、それまでのプライベートカンパニーに比べて、資金が潤沢となるため事業拡大はしやすくなります。ただし、それにより、これまで築いてきたビジネスモデルが変わってしまう可能性もあります。また、より社会的責任が増してくる中で、内向きな経営は許されなくなります。当社も上場を機に会社のステージが変わり、現在は第3の創業期として経営の強化に取り組んでいます。
「スピードと行動力が大企業にない強み。失敗を許容し、何度もピボット」
2000年頃に起きたインターネット革命の可能性を信じて起業を決めたのですが、会社設立直前でITバブルがはじけてしまいました。そのため当初計画した事業とは異なるコンサルティング業務から始め、その後リーマンショックに見舞われ、再び業容を転換。本来やりたかったITを活用した事業開発にチャレンジし、機械学習やAIを次々に取り込み成長してきました。私たちスタートアップは、大企業にはないスピードと行動力、そして失敗を許容し何度もピボットが可能な柔軟性が強みです。
次世代へのメッセージ
「スタートアップ企業の社長の片腕になり、経営者目線を養う」
スタートアップでは、まだ駆け出しの段階でも今後の成長に向けた準備も同時に進めなければいけません。成長が確実になってから準備を始めるのでは遅いのです。ですから、このステージのスタートアップ企業の社長は、ビジネスピッチに出かけてプレゼンテーションをしながら、自ら営業活動をし、採用も行うなど二重三重の仕事をこなしています。そんな中で、一つでも社長の肩代わりをしてくれる社員が入ってくれるのは、とてもありがたいことです。そして、その人自身にとっても、3年くらい社長の右腕を務めれば、必ず経営者目線を磨くことができます。
「起業家として憧れの先輩と、起業は当たり前のことという空気」
「学生のうちに学内に友達をたくさん作ろう」
私が学部2、3年生になる頃、周りで起業する人が増えてきました。一橋の卒業生の中には楽天グループの三木谷浩史さんを始め何人も活躍する起業家が社会の注目を浴びるようになり、次第に憧れの存在となっていきました。「起業」というものが当たり前の雰囲気ができてきたことで、自分自身も3年生の時にITベンチャーを立ち上げました。今後、次世代の中から、私を見て起業したという後輩が現れるよう頑張ります。 もう一つ、起業を後押しする材料は、学内の友人です。一橋の卒業生は社会の中核で活躍する人材が多いので、学生のうちに友だちをたくさん作っておけば、いずれ大きな助けになるはずです。
「よそ者、若者、馬鹿者」
これは、私が新入社員に伝えている言葉です。言葉の起源ははっきりしませんが、世の中を変える3人としてよく使われる表現です。よそ者は、それまでの常識に囚われない発想ができます。若者は、ピュアな心でものごとを見ることができます。馬鹿者は、怖いもの知らずということです。これから社会人になっていく皆さんにも大いに期待しています。