【師弟対談】Fast Beauty高橋賢氏×青島矢一教授②

2024/08/26

シリーズ「師弟対談」では、一橋大学商学部を卒業した先輩とその恩師の教員から、当時の思い出や現在のお仕事、在学生へのメッセージなどを伺います。

今回の師弟対談は、ヘアカラー専門店fufuを運営する株式会社Fast Beautyの代表取締役社長高橋賢氏です。商学部生時代にイノベーション・マネジメントが専門の青島矢一先生(商学部教授)と出会い、2006年に卒業。リクルートへ入社し、人材、販促領域等で活躍。ここから一転、2014年7月に、「キレイな髪で、毎日をにこやかに」という企業理念を掲げ、ヘアカラー専門店fufuを運営するFast Beautyを設立し、2021年には美容専門学校を卒業し美容師の資格も取得。今年の7月に創業10周年を迎えました。


fufuのビジネスモデル

高橋さん

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表面的にはヘアカラー専門の美容室をやっているだけのようにみえますが、fufuのビジネスはちゃんと説明するとすごく面白いんです。日本の美容は技術力が高いですし、これからは海外も視野に入れています。海外のユーザーは日本の美容師について、上手いし丁寧と評価していますがまさにその通りです。現地の美容師との差は大きいと感じるので、そのクオリティを海外に持っていけるといいというのもありますし、個人的なことを言えば、「海外でチャレンジしてみたい」と言うのが本音ですね。

青島先生

例えば、アジアやアメリカとかにもこういうヘアカラー専門店はあるの?

高橋さん

例えばアメリカとかだと、あちらはパーティー文化なので、むしろブローとかの専門店はあると思います。日本だと結婚式やセレモニーで髪をセットされる方が多いですが、海外だと食事やパーティーなどで気軽にセットしに行くのでブロー専門店が流行っていると思います。

青島先生

カットはどこの地域でも共通して切るだけだからいいよね。しかしカラーの場合は、日本でいうと黒髪が白髪になったのを染めるということでマーケットは押さえているんだけど、海外だと元の髪質や色などで、やり方も少し変わるんだよね。

高橋さん

そうですね。日本だと白髪染めだけですが、海外では白髪染めだけじゃなくて、ブリーチをしたうえで白髪を隠すということもあります。fufuは、「綺麗な髪で毎日をにこやかに」をコンセプトにしているので、髪が綺麗になると気持ちが明るくなるよねと言うのをその国のマーケットに合わせ、単に白髪染め屋さんではなくて、ヘアケアの美容院として現地の人に喜ばれたいですね。マーケティングを考えて、ちゃんとローカライズして成功できれば、持っている資産、強みをベースに生かしながら、他の国でも展開しやすいと考えています。

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今はまずはアジアに進出したいと考えているわけですが、皆からも横展開をするのであれば、アジアに行けばいいのではないかと言われます。もっと言えば、日本だと1店舗出せばこれくらいで黒字になるよねという予想がだいたい95%くらいの確率で当たります。しかし海外で1号店をやるのに日本での3店舗くらいの費用がかかるので、そうすると同じお金の使い方だったら日本国内に出店するべきでしょ、と投資家サイドは当然考えるわけです。ですが、それでは面白くないですよね。取締役会でタイでの出店の話をしてみたら、「やろう・やらない」とか、「YES・NO」じゃなくて、「面白いか・つまらないか」という議論になるんです。もちろん儲かるか、儲からないかもきちんと考えますけど、「儲かるけど、つまらないよね」ということをやるんですか?という話です。会社の経営もいよいよ面白くなってきました。

青島先生

創業当初は、美容院の運営は素人だったよね。カラー剤の調合にしても最初はどうやっていたの?

高橋さん

スタッフに聞いていましたね。書籍もあまり体系的なものがないので、メーカーとかがまとめている説明書やブリーチの論文などを読んで、なんとなく断片的に知るという感じでした。そういうのをシステマティックに学ぶべきだなと思って専門学校に行きました。カラー剤の調合については熟練の経験と高い技術力が必要と言われていますが、論理的に理解することができるはずだと考えています。

例えば、髪を染めるとき、まずその人の髪の太さ・細さや髪質、色味などの前提条件があります。その変数を踏まえてカラー剤を選定し、それが混ざり合って狙った色になるという、単純な数式じゃないかと思うんです。カラー材料はより便利になってきているので、美容師の技術だとか職人の技量と言っているのは、お客様の髪の見極め力も大きく影響するのではないかと考えています。もちろん、職人としての美容師という側面は大いにあると思うので、塗り方・塗る量・塗る時間など多くの変数があるのも事実です。

また、シャンプーについては、配合などを勉強してオリジナル製品を作り上げました。「きれいな髪で毎日にこやかに」というコンセプトで、fufuに来てもらって髪を染めるとすごく綺麗に発色して、簡単に色が落ちません、と言いたいなと思っています。髪の状態が悪いと色も綺麗に入らないし、それなら傷んだ髪のキューティクルや内部を補修できるようなオリジナルのシャンプーを作って、日々のケアもちゃんとしていただこうと考えたんです。お客様に喜んで貰えるとやりがいがありますよね。

サービス業において、従業員満足、顧客満足、企業収益の3つが良い循環を作ることを示したモデルで、「サービスプロフィットチェーン」というのがあります。従業員の待遇を上げるとモチベーションが上がるから、お客様サービスレベルが向上して、お客様の満足度が上がるからリピートされる。売上が上がって利益が増えたら、従業員に還元すると、また従業員のモチベーションが上がってサービス力が上がっていくという風に、いいスパイラルを作っていけば、fufuは儲かるでしょ、と言うのが根本的な話です。私たちはそれを真っすぐにやっているという感じがします。fufuも出店前に、予定地に立って対象の客層の人が通るのをカウンターで数えたりとか、そういうことを地道にやって造り上げてきました。お店でスタッフやお客様と話して、ここが不便だなとか、これをやると改善できる、というのをいっぱい積み重ねて考えたオペレーションなので、結構地味な取り組みなのです。

後輩の皆さんへ

高橋さん

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先日、青島ゼミに伺ったときにも話しましたが、資金調達とかそんなのばかりしていると、段々と資本主義にまみれて、それがどんどん嫌になっていくぞと。何かの本で読んだのですが、すごくしっくりくるのは、"利益=売上-コスト"と言うのか、もしくは売上は誰かに貢献するともらえて、その生産活動をするため費用をかけて、そして最後に"利益(りえき)=ご利益(ごりやく)"につながる。こう考えたほうが結果、誰かを踏みにじるとか、誰かが損するとかがない世界で事業活動を継続できます。経営は持続的な成長が一番大事だと思っていたので、小銭稼ぎではなくそういう風な考え方で経営をした方が楽しいです。お金のためにではなく誰かがハッピーになり、結果僕もハッピーですというほうが人生いいだろうなと思うのでそういう意味での社会貢献はありますけど、それがすべてですっていうほど人間はできていないです(笑)

青島先生

起業の最初の頃は、経営の柱を立てていくというのが主で売上や儲けに重点を置いていたけれど、益々お客様のためにとか、そういう方向賢に進んできていると思う。学生の皆さんに伝えるとしたら、このfufuのビジネスって、賢の才能もあると思うけど、やはりやるべきことをちゃんとやっているよね。本当に真っ当に、ということだね。ある意味、教科書的なことを愚直にきちんと精緻にやっている感じで、何か変わったことを派手にやってヒットしたとかいう話ではないよね。

高橋さん

はい。経営戦略とかアカデミックに捉えたとしても王道をちゃんとやって着実に積み上げている感じです。まさに「創造性開発フィールドワーク」の授業や青島ゼミのケースワークもとても役に立っています。

青島先生

そういう意味では大学の勉強が役に立っているといういい例だと思うので、学生に話をしてやってと言っているんですよ。

高橋さん

一橋の学生は皆、金融とか大手企業とかに行くので、理美容業界での事業を一橋出身者がやるというイメージが余りないのですが、逆にこちら側で上手くやったら強いんじゃないの、というのもあって経営をしています。

青島先生

もともとこの業界は土着で、職人の世界ではあるけど、そこにデータ・サイエンスティフィックなものが融合しているから強いということだよね。

高橋さん

fufuの経営をやっていて思うのは、大学で経営学概論や人事組織論などの経営の入口の「概論」というのをちゃんと学んでおいて良かったということです。例えば、経営の全体像を知っているから、実際に仕事に反映するときに、経営のこの辺の話だなと分かるんですよ。それでもう少し深堀して調べていくには、こういう本を読めばいいとかいうのも分かります。この知識があるかないかで、会社の運営も大きく変わります。資金調達に関しても、関連する授業を受けていました。だから商学部の授業って、とても仕事に生きています。経営の共通言語を知っていると話も早いですよね。やはり一橋の授業内容がとても充実しているからなんでしょうね。

青島先生

実に配慮のある発言で(笑)。でもマーケット、組織、人材、お金について、知識をひと通りマッピングできていると仕事のスピード感も違ってくるよね。

高橋さん

最後に、なぜ一橋大学に進学したかという話ですが、実は僕の父親が大学の教員をしていたのですが、小さいころから"結局は友だちが一番大事だぞ"と教わっていて、大学ではたくさん出会いがあると言われていました。助けてもらったり、困ったときは知恵を貸してもらえるのが、大学時代の友だちだったり、恩師の先生方であったりします。

青島先生

一橋はいい意味でコミュニティも狭いから、皆どこかでつながっているよね。

高橋さん

いまは経営者という立場ですけれど、一橋の人とお会いすると「一橋ですか!」と3歩ぐらい前に進んだ状態の関係性からビジネスをスタートできるので、それはとても大きいです。一橋のOB・OG組織の如水会※1も何かあるとサポートしてくれますし、大学非公認ではありますが如水ベンチャーズ※2というベンチャー・キャピタルがあり、運営をやっているのも同級生であったりします。そういうふうに応援してくれる一橋のつながりがあって、僕自身も大学へ恩返しをしたいという思いはあるんですよね。こんな気持ちになるのも一橋での先生方からの学びや、仲間との絆があるからこそです。

青島先生

また今度、大学に来て後輩たちにリアルな経営の話をしてくれるといいね。

高橋さん

はい。後輩のためでしたら、いつでも伺わせていただきます!

 

※1 一橋大学の同窓会組織

※2 一橋起業家のネットワーク。上場を果たした先輩起業家や、大企業経営者など、OBOGの中でベンチャー支援を行える方のネットワークを提供している。