【師弟対談】Fast Beauty高橋賢氏×青島矢一教授①

2024/08/26

シリーズ「師弟対談」では、一橋大学商学部を卒業した先輩とその恩師の教員から、当時の思い出や現在のお仕事、在学生へのメッセージなどを伺います。

今回の師弟対談は、ヘアカラー専門店fufuを運営する株式会社Fast Beautyの代表取締役社長高橋賢氏です。商学部生時代にイノベーション・マネジメントが専門の青島矢一先生(商学部教授)と出会い、2006年に卒業。リクルートへ入社し、人材、販促領域等で活躍。ここから一転、2014年7月に、「キレイな髪で、毎日をにこやかに」という企業理念を掲げ、ヘアカラー専門店fufuを運営するFast Beautyを設立し、2021年には美容専門学校を卒業し美容師の資格も取得。今年の7月に創業10周年を迎えました。


商学部生時代、青島先生との出会いから20年

高橋さん

最初に青島先生と出会ったのが、当時1、2年生全員必修で開講していた「創造性開発フィールドワーク」というグループワークで社会課題の発見~解決を行う授業でした。

青島先生

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授業では自分たちで問題を立てて、自分たちで問題解決をするというプロジェクトをやっていて、そこにさまざまな企業家の先輩たちが来てくれていました。本学OBで楽天グループの三木谷浩史さんや実業家の吹野博志さんも参加されていました。私と米倉誠一郎名誉教授とICSの楠木建特任教授、阿久津聡教授の4人の教員でプロジェクトを回していたのを覚えています。この授業を終えて3、4年生になったらメンターになる人もいて、1、2年生と先輩方が一緒になって進めるすごくいい授業だったんですよ。

高橋さん

入学した時に先輩たちが、「商学部でなくても全員受けるべきだ」とおっしゃっていました。これが青島先生との最初の出会いで、とても面白い授業だなと思っていました。例えば、受験までは答えが一つだけど、大学に入ると答えは一つじゃないよとか、社会科学で考えると答えは無限にあるよ、というような世界観です。それまではなんとなく言われていたけれど、ちゃんと認識できたのはこの授業が最初なんですよね。そもそも課題も学生が自分たちで見つけて、解決策も自分たちで見つけるといいよという授業でした。

青島先生

今も導入ゼミで使っていると思いますが、苅谷剛彦さんの著書『知的複眼思考法』(講談社 2002/05)を当時の授業でも必ず読んでいました。答えは一つじゃないというか、複眼で見なければならないという内容です。それと同じようなことを一橋で教員を始めた1年目に『社会科学がなぜ役に立つのかについて考えたこと』(一橋商学論叢)というタイトルで書いていて、それも授業の中でその本と一緒に読んだと思うんだよね。

高橋さん

青島先生からは、「頭の使い方」についても教えていただいたと記憶しています。学部の2年間、ゼミで週に1コマ、その予習を10時間やったとしても、学部の2年間でそんなに多くのことは学べないけれど、「頭の使い方」や「本を深く読んで、深く理解する」というようなことをすれば応用が利くので、そういう頭の使い方を覚えるといいよ、という話をされていました。そういえば、ゼミの最初の頃にも「先生は話している内容が、全部整理されていらっしゃいますけど、どうしてなのですか?」と伺ったことがありますよね。

青島先生

毎年同じことをやっているからだよ(笑)

高橋さん

先生は授業の前には、結構練習をしているとおっしゃっていました。今から20年前になりますけど、あの時の青島先生は39歳で、今の僕よりも年下だったわけですが、なかなか極めていらっしゃいました。

卒業後、大手企業から独立後、理美容専門学校にも入学、美容師免許を取得

青島先生

卒業後には、皆で武蔵境の寿司屋さんに行ったよね。

高橋さん

その頃は、働いていた会社を辞めたか、起業することを決めていた時期だと思います。

青島先生

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その時にヘアカラーの話を聞いた覚えがあって、100店舗を目標にして達成したら売ってしまおう、とかいう話を私がして、その時はきみも同意していたんだよ。戦略論的に言ってあるところまで行ったら真似されてしまうので、商社かどこかへ売ってバイアウトしちゃうといいねって言っていた。今はこんなに夢中になってヘアカラーの事業にのめり込んでしまったけれども。

高橋さん

そんな話、してましたね!創業当時はそんな憧れがなかったとは言えないですけど、お客さんにとっても働いてくれる人にとってもちゃんと価値のある事業だと思えば思うほど、のめり込んでいったんだと思います。

青島先生

そんな話もしていたけれど、いつの間にか髪も染まって、経営者だけでなく美容師にもなっていたね。

高橋さん

一橋を卒業してリクルートに就職、その後起業して、改めて理美容専門学校に入り、美容師免許を取ったことについて、皆さんからよくなぜですか?と聞かれることがあります。その理由は、美容業界で起業するにあたり、その道を知るという考えからです。美容師や美容に関わる人たちが、どういう学びを経て育ち、その気質やストーリーのようなものが理解できたら、ここで仕事をする上でいろいろ役に立つのではないかと考えたんです。

美容専門学校は、僕が行ったのは通信課程だったので在学期間3年間のうち、学校に通うのは全部で3カ月くらいの期間だったんですが、通常の昼間の課程だと週5日間の授業に2年間通って、3回遅刻したらもう留年です、というのが当たり前だったりするんですよ。ということは、そういう厳しい履修規定の中で学び、技術を身につけて卒業して国家試験もクリアする。こうした鍛錬を積むことによって、習熟度が上がっていく職人の世界観にはリスペクトはありますが、自分はやったことがないので経験した方がいいと思ったんです。会社についても同じと考えていて、血の通った仕組みを作っていこうとすると、きちんと土台から造り上げるのが大事だと思っています。美容師は職人なので、この修行の過程を飛ばしてしまうと、何も知らないくせにと誰しも心のどこかで思うでしょう。美容業界で経営をするにあたり、それは言わせたくないなと思うと、じゃあ僕も美容師免許を取ればいいということです。

青島先生

競合がどうなっていったかなども興味あるところだね。

高橋さん

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2014年の創業当時は、全国に2、30店舗くらいのヘアカラー専門店がありました。fufuの店舗は最初の数年は3、4店舗でしたけど、4、5年目くらいで一気に100店舗くらいに増やしたときに、資金調達に成功したといったニュースもあり、他社のヘアカラー専門店もすごく増えました。そしてfufuのデザインや運営もコピーされて、一番激しかった時は、出店していないはずの街にロゴの色だけ変わった同じような店がありました。せっかくなので見に行ってみると、メニューを始めいろいろなものがかなり近い。そういうコピーがすごく増えた時期がありました。「オリジナルは模倣に負けることがあるのか」と思いながら、オリジナルだから大丈夫と思いつつ、調子に乗ったら駄目だよね、と気を引き締めて「僕らは更に進化し続けるしかない」と思いやってきました。最近はさまざまな状況も変化しチャンスだと思っています。弊社ではオペレーションを仕組み化していて、上手く効率的に回せるように作っているので、将来的にはfufuのビジネスモデルを同業他社に導入する事業もできたら良いなと思っています。

青島先生

fufuのブランドは確立されてきているし、上手く回っているのは接客の良さもあるのかな。

高橋さん

丁寧な接客と嘘のない仕組みでしょうか。例えば、スタッフの報酬に関しても採用時の話と違うというのはどの業界でも起こり得る話ですが、弊社は全然違いますし離職率も少ないです。あとは経営陣の違いはあります。有能なマネジメント層が多いので。先生方にもいつか、ぜひ社外取締役でお願いしますとずっと言っていますね!

青島先生

まあそんな感じで、今でも当時のゼミ生も含め、たまに会っているよね。賢たちの期には、私が次の年にはアメリカに行くことが決まっていて、1年しか担当できないと分かっていたから、ゼミ生募集の時に人数を絞りたくて厳しい課題を出したんですよ。「身の回りにある強烈に疑問に感じることについて、それはなぜなのか」という仮説を書く、みたいなテーマだったね。

高橋さん

そうですね。それでゼミの2年目は、青島先生はアメリカへ行かれて担当ではないけれど、卒論指導もしてくださっていました。僕の卒論のテーマは、国立市にある個人経営のバー数十店舗にインタビューを行い、「国立の個人経営のバーが上手くいくにはどうすればよいのか」という論文を書きました。卒論担当の加藤俊彦先生(商学部教授)は、「よくここからこんな結論を出したな」と、評価は分からないけど感触は比較的良さげだったんです。青島先生に最初に論文をご覧いただいた時は、メールの一言目に「そもそもこれは論文とは言えない」と。だけどまあ考えたプロセスは分かるし、とお返事いただきましたが、最終的に卒業できたので良かったです!

青島先生

サンディエゴでは日本にいるより、ずっと時間があったから卒論も見ていたんだよね。どこかにコメントを書いた文書が残っているかも知れない。

高橋さん

懐かしいな。それはぜひ見たいです!あと、ゼミの卒業旅行はサンディエゴの青島先生に会いに行きましたよね。大学を案内していただいたり、先生のお宅へ遊びに行った記憶があります。

青島先生

懐かしい、20年も前だね。でも全然変わらないから20年も過ぎた気がしないよ。

高橋さん

20年も前の話をこんな風に語る大人になるのかと思いました。僕はなんにも変わってない気がする。経営者感もないですし。

青島先生

でもね、ビジネスについては、すごくよく考えているんですよ。だから私の授業にも来て話をしてもらっています。