2024/08/26
シリーズ「活躍する卒業生」では、一橋大学商学部を卒業した先輩に、大学時代の思い出や現在のお仕事、在学生へのメッセージなどを語っていただいています。
今回は、ベトナムから日本に留学し、2004年に一橋大学商学部を卒業、現在ベトナムのハノイ貿易大学のビジネス日本語学科で学科長を務められているグエン・ティ・ビック・フェ先生に登場いただきます。ビック・フェ先生は、同大学から多くの学生が日本に留学や就職するのをサポートしています。
私の父は日本語教師で若い頃に日本に留学した経験があり、私が小さい頃から家には日本の本や雑誌が置いてあったので、それらをよく読んでいましたね。その影響もあって、憧れの日本への留学をずっと目指していて、1997年にまずはハノイ貿易大学に入学しました。そこで日本の文部省(当時)の留学生奨学金を得ることができ、99年4月に大阪外国語大学留学生日本語教育センターに入学することになりました。日本に初めて降り立った時の感動は今でも忘れません。関西国際空港の大きさに驚き、桜の美しさに見とれ、人の多さに圧倒されましたね。
当時私はまだ19歳で、外国で一人で生活することに母はとても心配していました。そのため、まだインターネットは普及していなかったのもあり、母への国際電話代はとても高額になってしまいました。
留学して最初の1年間は大阪外国語大学で日本語を勉強していましたが、その間に私は日本企業の経営に興味を持つようになりました。日本は「資源の貧しい国」と聞いていましたが、実際には生活は大変豊かでした。一方、ベトナムは「金の森、銀の海」と喩えられるほど資源が豊富と言われているのに、人々の暮らしは豊かとは言えませんでした。この差は何なんだろうという思いから、特に「日本的経営」に注目し、経営を学びたいと考えたのです。そして、先輩から経営なら一橋大学と勧められて受験することにしました。
キャンパスがある国立(くにたち)の街並みは落ち着いた雰囲気で、特に国立駅からまっすぐ伸びる大学通りの桜並木は大変美しく感動しました。一橋での学生生活は、さまざまな留学生支援が用意されていて、中にはホストファミリーを紹介してもらえるプログラムがあり、地元のご家族と交流することができました。そのホストファミリーとは今でも連絡を取り合っています。
一橋の授業では、最初は分からない言葉もあり苦労しましたが、チューターの方に助けていただきながら、徐々に慣れていきました。2年次に受けた伊丹敬之先生(当時商学部教授)の講義は、多くの課題図書を読むことと、日本語で6ページ以上のレポートの提出が求められる、留学生にはなかなかハードな内容でした。最終的に日本企業に関する独自調査をまとめ、日本語でレポートを書き上げた時には、ものすごい達成感でしたね。あまりに嬉しかったので、わざわざベトナムにいる父にもレポートを読んでもらったくらいです。もちろん父は「よくできたね」と褒めてくれました。
こうした経験から、その後3年次から卒業までのゼミは伊丹先生にご指導いただきました。ゼミでは学生が自分の研究について発表するのですが、他のゼミですと自分の順番が回ってくるのは数週間に一度くらいです。しかし、伊丹ゼミではランダムに当てられるので、必ず毎週発表の準備をする必要がありました。私の場合は言語の壁もあり、人一倍勉強する必要がありましたが、とても充実した毎日でした。伊丹先生は、私が日本人の学生とは異なる視点で発言したり質問したりすることを歓迎してくださったので、それが私にとって大きな励みになりました。
一橋の商学部卒業後は、神戸大学で修士課程に進み、一旦帰国してハノイ貿易大学ビジネス日本語学科の教師になりましたが、再度神戸大学で博士号を取得しました。日本への留学は1度目と2度目を併せて12年間に及び、日本に残って企業に就職するという選択肢もありましたが、私は教師として日本で学んだことを母国の学生たちに伝えたいと強く願っていたので、ハノイ貿易大学のビジネス日本語学科で教壇に立つことを決めました。経営学科ではなくビジネス日本語学科を選んだのは、日本的経営を日本語で教えたいと考えたことと、何よりも日本とベトナムの架け橋になりたいと思ったからです。
最近では、大学で教えるだけではなく、企業との連携も増えています。海外からベトナムへの投資額で日本は2位で、多くの日本企業が進出しています。また、ベトナム企業も日本との取引が増加しています。そうした企業との産学連携として、企業にアドバイスをしたり、共同研究を実施したり、企業が求める人材の育成を大学で取り組むなどしています。
ビジネス日本語学科には1学年約150人の学生が在籍し、私は3、4年生を担当しています。中には日本に留学する学生や、インターンシップや就職で日本に行く人など、日本での生活を希望する人が多くいます。特に一橋を希望する学生からはアドバイスを求められますし、日本で経営を学びたいという学生には積極的に一橋大学を勧めています。ハノイ貿易大学は一橋大学と単位の交換制度を持っていますので、私がアドバイスをした交換留学生のうち数名が現在も国立キャンパスで学んでいます。父が経営しているドンドー日本語センターでも一般のベトナム人向けに日本語や日本文化を教える仕事をしています。私の教え子たちが、今後さらに日本とベトナムのつながりを強くしていってくれることを願っています。
日本は私の第二の故郷ですから、また近々日本へ行く機会を作って、以前のホストファミリーの皆さんともお会いしたいですね。