【講義レポート】企業価値経営論(株式会社アバントグループ寄附講義)/商学部4年 深野聖真

2025/08/06

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2024年度から開講されている『企業価値経営論』は、近年、重要性が増している企業価値経営について、事業価値、事業ポートフォリオ、投資家との対話、人的投資経営、M&A等にフォーカスをあて、その実践に向けての取り組みに関する最新の潮流を学び、企業価値創造にあたって企業が兼ね備えておくべき要件や役割を深く考える講義となっています。

前半では中野誠教授(経営管理研究科)による企業価値に関する基礎的な枠組みについての説明があり、その後は、客員教授を務める株式会社アバントグループ グループCEOの森川徹治氏による起業経験・IPO経験、現代の企業経営における企業価値の意義・捉え方を学ぶ講義がありました。今回、この講義を受講した商学部4年の深野聖真さんの講義レポートをご紹介いたします。


『企業価値経営論』を受講して
商学部4年 深野聖真

この講義は、非常に質の高い講義でした。講義は「創業者:森川徹治先生(株式会社アバントグループ グループCEO)」「戦略責任者:諸井伸吾先生(株式会社アバントグループ グループCSO)」「投資家:アンドリュー フィリップス先生(株式会社VISTA CEO)」「人的資本経営者:里中恵理子先生(株式会社アバントグループ グループCHRO)」の4つの視点から展開され、学生の私には触れられない世界を見せていただきました。

森川徹治先生:「創業者」の視点

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森川先生は、企業価値経営に必要な「自社の値決めをする力」や、得た人生観について教えてくださいました。事業活動の正しさは、長期的な企業価値の向上で計測されます。森川先生は具体的な数値目標を掲げ、定性的かつ定量的な戦略に基づきグループの成長ストーリーを描いていらっしゃいました。また人生観の話では、起業までとその後の成長、付随した苦難とその克服について、グループのトップだからこその話や、他企業のCEOとの会話についてなど、とても貴重な話の数々でした。

諸井伸吾先生:「戦略責任者」の視点

諸井先生は「事業会社の経営企画の戦略観として、具体と抽象を行き来し、戦略の解像度を高くすることが重要である」ということを軸に講義をされました。思考力と現場感覚の両方を持つことが戦略の価値をあげることや、戦略立案と財務の流れを一貫することが経営を綿密にすることなどに触れていただきました。個別ケースとしてオタク女子界隈を取り上げ、規制、市場の動き、株主からの賛否、公表方法など、実際の状況についてお話がありました。戦略に対するストイックな姿勢とユニークな例示は印象深かったです。

フィリップス先生:「投資家」の視点

フィリップス先生の講義は、機関投資家から経営コンサルティング業界に転身されて、投資家目線のコンサルティングをされている経験から、経営指標やバリュエーション手法と実際の事例についての話が中心でした。株主と企業の間では重視する指標(ROEや売上高成長率など)にズレがあることや、実際にある3社を例に企業価値を見極める方法について解説いただきました。また「投資家目線から豊田自動織機のディスカウントTOBはフェアか、アンフェアか」というケーススタディもありました。分析があらゆる方法で展開され、個人的には豊田自動織機の特別委員会に関する学びが強かったです。

里中恵理子先生:「人的資本経営者」の視点

里中先生はご自身の経験と絡めながら、人・組織の成長に必要な要素と、人的資本経営がなぜ日本で注目されるようになってきたか、そして人的資本経営がどこを目指すのかについて主にお話しされました。例とした企業2社をあらゆる角度から比較しつつ、強い組織に必要な要素を挙げてくださいました。多様なバックグラウンドを持つグローバルなメンバーと働かれていたことがある里中先生は、国や文化の違いによる失敗経験や、内省と成長の過程を丁寧に追い、人的資本会計が必要な理由を説明されました。ふわついた人的資本経営という言葉が形を成したようでした。

講義ではディスカッションが非常に多く、軽い会話のようなテンションで話しやすい雰囲気がありました。特に「株主構成により企業価値は変化する?」という議題は盛り上がりました。森川先生は学生の発言から刺激を求めているとコメントされており、先生方は私たちの意見に耳を傾けてくださって、先生と学生というよりも対等な意見交換のようでした。

グループ発表は全部で3回ありました。与えられたケースの分析が2つ、自由な分析が1つです。この講義には社会人のMBA生も参加しており、レポートを完成させる際の自主勉強はもちろん、資料に載っていない数値の推定など、彼らから数多くの点で学びを得られました。

授業の中で印象に残ったこととして、まず何より、講師の先生方から発せられるオーラです。授業内容はそれ以上であり、特に森川先生の人生観を扱う講義は格別でした。

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もう一つは、アバントグループがこの授業を開講されている考えについてです。この講義はアバントグループから寄附をいただき、ご多忙である経営陣の皆様も講師として駆けつけてくださっていてご負担も多いかと思います。しかし、森川先生から「自分を見出してくれたり引き出してくれた先人がいるからこそ良質な経験が生まれている」という言葉が出た時、私はこれこそがこの講義の出発点だったのではないかと考えました。これから社会に出ていく私たちのためにやってくださっていて、そして最終講義で「すべては人、人の活動である」と強く何度も話されていたことから、森川先生が「人との縁、育み」についてどう考えていらっしゃるかを知ることができ、最も印象に残ったものになりました。

私がこの講義を通して学んだことは先人の経験とその成果物です。先生方からはその人生といかに困難を乗り越えたか教えていただき、貴重な教訓を得られました。またMBA生からは私の専攻分野が実際のビジネスにどうつながっているかを見せていただきました。

非常に有意義で贅沢な時間でした。高校生の頃に想像したままの「The 大学講義」で、これまで商学部で理論を中心に学んできたところに、より実際のビジネスに近い議論を交わせたことはとても貴重な経験になりました。この講義に出会えたことは運が良かったと思いますし、他の学生にもぜひ受講していただきたいです。中野先生、アバントグループの皆様、本当にありがとうございました。

 

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