藤本恵花さん(商4年)と直原龍之介さん(商4年)さんが「日経ビジネスLIVE 2025 Winter」に登壇
2026/03/03
商学部の円谷昭一ゼミでは、学生が日本企業の統合報告書を読み、その企業へフィードバックする「統合報告書感想プロジェクト」が行われています。企業のステークホルダーの1つとして「将来世代」を位置づけ、それを統合報告書の中で明記する企業が徐々に増えてきています。将来世代の一翼を担い、企業にとっては潜在的な人的資本でもある大学生の目に各社の統合報告書がどのように映っているのかを知って頂くために、大学生による統合報告書の感想プロジェクトが2022年より立ち上がりました。これは企業からの依頼で統合報告書を読み込み、学生目線の感想を企業で発表するというもので、円谷ゼミ生33名、今年度は約60社の統合報告書のレビューをしています。
今回、円谷教授とゼミ生代表として藤本恵花さん(商4年)、直原龍之介さん(商4年)が、日経ビジネスが主催するセミナー「日経ビジネスLIVE 2025 Winter」(昨年11月28日)の専門セッション「人的資本情報開示の盲点 将来世代が見抜く企業の真価」にパネリストとして登壇し、統合報告書感想プロジェクトについて紹介しました。経営とガバナンスの構造的課題を長年分析してきた円谷教授による独自の視点とデータに基づく問題提起、そして企業の統合報告書を実際に読み解いてきたゼミ生の藤本さん、直原さんのコメントと共にLIVEの様子を一部抜粋してご紹介いたします。
テーマ:人的資本情報開示の盲点 将来世代が見抜く企業の真価
登壇者:
一木 裕佳 氏(司会:日経BP 総合研究所 人的資本経営フェロー)
円谷 昭一 教授(一橋大学商学部)
藤本 恵花さん(商学部4年 円谷ゼミ所属)
直原 龍之介さん(商学部4年 円谷ゼミ所属)
冒頭、円谷教授から "学生が開示情報を見る視点"などについての話がありました。
「将来世代の考え方」について、質と量の2つの側面でみる
円谷先生
全国の出生数の昨年実績は68万人で、今後は少子化の影響でどの会社も新卒を取れないという状況になってくるのではないかと思います。そして、「働く」ことについての学生の考え方も違ってきているというのも感じています。下記図の左グラフのように、これまでの世代の人事では、入社から退職までの面積を最大化させてあげることが従業員の幸せなのだという発想で、賃金カーブや福利厚生などが作られているのだと思います。ですが、学生は右側のグラフのように微分の発想で物事を考えています。いわゆる20代で自分の力がどれくらい伸びるかというその傾きの考えです。ですので、積分の面積思考の企業は、新卒採用はどんどん厳しくなってくる、発想の転換をいかに早くできるかによって、今後競争優位性に響いてくるのではないかなと個人的には考えています。
将来世代が開示情報をどのように見ているのか
円谷先生
私のゼミでは学生が日本企業の統合報告書を読んで、企業へフィードバックする取り組みをしていて、企業から問い合わせがあれば全部お受けし、ゼミ全体としては結構な量をやっています。そこで、彼ら将来世代が開示情報をどのように見ているかということについて具体例をご紹介しようと思います。ある企業の有価証券報告書では従業員の女性比率が3割なのに、統合報告書の表紙の写真では女性の比率は5割であったと学生が報告をしてきました。また平均年齢についても有価証券報告書だと40歳を超えているのに、統合報告書の表紙に使われている写真について、AIで年齢を推測したところ40代ではなく、20代であったそうです。そこから学生が全統合報告書発行企業の千何百社を調べていくと、実際の従業員の女性比率より統合報告書の表紙の女性比率が高いことがわかりました。また表紙は女性の写真のみという企業もあったようです。このように学生に見抜かれるといったところは注意が必要で、この話を人事担当の方にすると開示の担当者との接点がないので、そんな表紙になっているのも知らなかったということも結構多くありました。
また、取締役会のメンバーだけで写っている集合写真を上手くAIで定量化できないかということについてゼミの 3年生が取り組んでいます。例えば、取締役の一体感というものをいわゆる人との距離で測るのですが、多くの企業では等間隔で並んでいて、中には卒業写真のようにする企業もあれば、腕や肩を組んでというような写真もあって、そのような一体感を数値化できないかということです。学生は独特な視点でいろいろ考えるなと思っています。
サステナビリティ委員会とサステナビリティ目標
一木氏
藤本さんは、プライム企業のサステナビリティ委員会とサステナビリティ目標の関連について卒業研究をされていますが、その視点から企業について感じたこと、こういう点が問題だと思ったところを含めてお話を伺えますか。
藤本さん
私たちの研究の概要からお話しさせていただくと、東証プライム企業におけるサステナビリティ委員会とサステナビリティ目標との関連について、主に委員会をメインに調べました。対象となる企業としては サステナビリティ委員会がある企業で、かつその委員会にいる取締役の方の氏名がこちらで把握できるような企業について642社を分析しました。
この研究から、私たちは大きく二つのことについて気づきを得ることができました。まず、取締役のスキルマトリックスを見ると、サステナビリティ委員会に所属する取締役が、実際にその企業の掲げているサステナビリティ目標に関連するスキルを持っているとは限らないということ。もう一点は、取締役の任期とサステナビリティ目標の達成についてです。企業のサステナビリティ目標は、カーボンニュートラルで2050年、近いものでも2030年といった中長期の目標になっています。ですが、そういった目標としている年度には、現在の取締役が総入れ替えになるという企業も多いと考えられます。これについて、サステナビリティ委員会の活動をどうつなげていくかといった仕組みづくりが、少なくとも開示上からは「まだなされていないように見える」というような気づきがありました。
円谷先生
藤本さんたちは、取締役が何年・何歳で退任するのかというのを、642社について過去のデータをさかのぼり推定しています。それにより、サステナビリティの目標を掲げているけれども、目標年度にはその取締役たちはいないということを明らかにしました。現取締役が自分ごととしてサステナビリティ目標に対して取り組めるかどうか、これはサステナビリティだけではないのですが、今少子化が急激に進む中で「今やるべきこと」を、今やっていただかないと日本企業の厳しい時代が迫ってきているのではないかなと思っています。
スキルマトリックスについては、日本で開示が制度化されてそれほど年数もたっていないので、まずは手探りで作り始めて、ようやく中身の議論が始まった段階だと思いますので、もう少し時間をみてあげたほうが良いかなというのもあります。しかし一方で、「もう開示したのだから終わり」という企業もいます。これをぜひ経営に使っていこうという意思を持つ企業が増えることを期待しています。
統合報告書に書いてあることは本当ですか?
一木氏
直原さんは指名報酬委員会を専門に研究されていて、学部の4年間で600社ぐらいの統合報告書をレビューされたということですが、その経験や研究を踏まえて、企業の開示に対して思うことや気になる点などございますか。
直原さん
ざっくりとした言葉で言ってしまうと、企業の開示はよくわからないという思いがあります。指名報酬委員会は取締役の指名・報酬等の手続きの公平性を保つために存在していますが、本当に機能しているのかわからないです。これはすごく問題だなと感じています。もちろん統合報告書で言えること、言えないことって、各企業でいろいろあるとは思うんですけれど、3分の2くらいの企業は似たようなことを書いています。そうするとやはり、「統合報告書に書いてあることは本当ですか?」と思うわけです。その企業の中のこととか、あるいは経営環境のこととかが本当に反映されているのかな?と疑問に感じてしまいます。ただ、その企業についてわからない、と思われるのはもったいないですし、書けることはもっと具体的に書くほうがいいのではないかと研究をしていて思いました。今は学生という立場なので、言いたいことを言えるのですが、私たちも春からは自分たちが言われる側なので、身も引き締まります。でもそれでも、学生なりにお伝えしたことが、もし何かの参考になれば嬉しいなと思います。
円谷先生
私は企業で働いているわけでもなく、開示担当者でもありませんが、報告書を作成している方々のご努力とご尽力は重々承知しているところです。報告書を作る際にテクニカルなところについては、いろいろブラッシュアップできると思います。ですが、そもそも「情報開示とは何ですか?」というところでは、私なりに考えた上で「勇気と決断です」と言っています。勇気と決断という"視点"で自社の情報開示を見直していただくと、こういうものは出したほうが良いんじゃないか、いやこれは書くのは止めようとか、いろいろ基準ができてくると思います。確かに社内の縦割りの弊害というのはあると思いますけれども、人事の方と開示の方が一緒にお考えいただくと、すごくいい情報開示に進化していくのではないかと思っている次第です。