「消費者行動」ゲスト講師:NPO法人 東京里山開拓団 代表 堀崎茂氏/心豊かな暮らしと社会をゼロから創り出す方法

2026/09/07

夏学期開講の「消費者行動」(担当教員:松井剛教授)では、日々の消費者行動がどのようなメカニズムで生じているのかを自分で考えるきっかけを提供することを狙いとしています。7月14日には、ゲスト講師としてNPO法人 東京里山開拓団 代表 堀崎茂氏をお招きし、「心豊かな暮らしと社会をゼロから創り出す方法~児童養護施設とのふるさとづくり実践からの考察」と題して、Social Responsibilityに関してご講演をいただきました。

東京里山開拓団はメンバー全員が無給のボランティアとして、児童養護施設の子どもたちと共に荒れた山林や空き家をDIYで再生し、里山の麓に子どもたちの「ふるさと」を創り出すボランティア活動をしています。そのなかで、子どもたちの協力による里山再生や都心の空き家での施設退所者たちの自立応援など、様々な施策で社会課題の克服に取り組んでいます。担当教員の松井剛先生(経営管理研究科教授)からは、「支援活動をサステナブルに行う上での仕組みや、取組みへのパッションなど多くの示唆をいただいた」とのお話がありました。学生の質疑応答を含め、講義から一部抜粋をしてご紹介いたします。


子どもたちと共に荒れた山林や空き家をDIYで再生/児童養護施設のふるさとの山づくり・里山開拓とふるさとの家・さとごろりんづくり

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私たちボランティアで行っているのは、虐待や貧困で苦しんできた児童養護施設の子どもたちとともに彼らのふるさとをつくり出すことです。荒れた山林や空き家のDIYでは開拓者精神を発揮して、入所中も施設退所後もずっと通えるふるさとづくりに取り組んでいます。20年前に始めたこの「東京里山開拓団」の取組みの根本は、荒れた山林や空き家を無償で調達し、DIYで付加価値付けをして、それを社会事業として無償で提供するところにあります。

特に活動のポイントとなるのは、"子どもたちとともに"荒れた山林や空き家を開拓していくということです。きっと、大人たちだけでつくって子どもたちに提供する方がはるかに早くて楽です。ですが、ここではボランティアと子どもたちが一緒に試行錯誤しながらつくりあげる、つまり、子どもたちにも参加協力を求めています。それは手間も時間も掛かりますが、自分のふるさとを自ら創り出すことそのものに価値があるからそうしているのです。それによって、ここが単なる一時的な居場所ではなくて、これからもずっといられる、児童養護施設を出てもずっと通える自分の"ふるさと"となるのです。こうした志ある目標設定が、社会事業を創り上げていく上でとても大事なところだと感じています。

心にトラウマを抱えた子どもたちのケアについては、専門家でも彼らの心を開くのに半年はかかるといわれることがあり、簡単なことではありません。ですが、里山では、すぐに子どもたちの方から自ら心を開いて、いろいろと話してくれるようになります。それくらい、里山には心を開く力があるのを感じています。さらに言うと、子どもたちの虐待・貧困の課題だけではなくて、さらに他の社会課題(荒れた山林・空き家・孤立孤独・地域衰退)なども、皆で楽しみながら克服していこうとしています。特に、里山では環境と福祉の課題については一石二鳥で取り組むことで相乗効果を生んでいます。

自立応援の家・まちごろりんづくり

下の図は、皆さんの生き方を一枚の絵にしてみました。「稼ぐ・買う・消費する」という一輪車に乗っている人がいますが、社会に出るとほとんどの人がこのような一輪車をずっとこぎ続けていくことになります。こういう生き方は、現代都市社会ではごく当たり前で、実際にほとんどの人は人生の大半の時間を、この一輪車に乗ることに費やしています。うまく乗れる人は成功者と言われます。うまく乗れる人が増えて税金で支えればみんなで豊かな社会が実現できるだろうと一般的には信じられています。さて、みなさんは、これから40年間、この一輪車をこぎ続けることができますか?それで本当に豊かな社会は実現できるのでしょうか?

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児童養護施設の子どもたちの場合を考えてみましょう。虐待や貧困などで苦しんでいる子どもたちは、児童相談所により命にかかわるレベルと判定されると、社会的養護という仕組みのなかで親元から離れて児童養護施設にやってきます。そこでは常駐の職員が親代わりとなって、一つ屋根のもとで子どもを養育するという制度です。しかし、20歳前後になると多くは、社会的養護から外れて施設から出なければなりません。出たらそこから先は基本的には自分で生きていきなさい、ということです。保護者からの支援が見込めず、社会の支援も手薄になる中で、自立を迫られます。そんな状況の中では、そもそもこの「稼ぐ・買う・消費する」の一輪車を手に入れることができないということがしばしばです。手に入れたとしても一回か、二回倒れただけで立ち上がれなくなってしまいます。そこからの転落は早く、社会の激流に飲み込まれてしまうのです。

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そこで、私たちは、彼らがどうすれば本当に自立できるかについて、入所中から施設退所後まで、荒れた山林や空き家を活用することで取り組んでいるのです。荒れた山林や空き家があふれていて、その傍らに明日の居場所に困る人がいるのであれば、空いている場所を子どもたちが自ら直接活用して、別々の社会課題の壁を乗り越えればいいのではないかと考えたのです。

行政では、子どもの虐待や貧困に対処する部署と荒れた山林や空き家などを管轄する部署は全く別で、一緒に取り組むには組織上の大きな壁があります。それだけでなく、専門性の壁、予算の壁、業界の壁などが立ちはだかり、結局、困っている人のところにはごく部分的な支援が非効率な形でしか届かないのです。そこを民間ベースで乗り越えようというのが私たちの活動です。

例えば、「自立応援の家・まちごろりん」では、都心の空き家を無料で借り受けて、DIYで綺麗にして、ここを住居として施設を出た子どもたちに無償で提供しているのですが、税金投入なしの民間協力だけで実現しています。ただし、ずっと無償ではなく、児童養護施設を退所してから最大5年間という区切りを設けています。入居者は5年間で、自ら毎月家賃相当分を積み立て、私たちの仲間づくりやふるさとづくりのイベントに参加し、自立の準備を進めるのです。つまり、私たちは「おせっかいな大家」として入居者を応援しているのです。

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この取り組みは、私たちと児童養護施設だけで成り立っているわけではありません。企業や銀行からの協力もあります。連携する不動産会社は都市再開発のために古いアパートや一軒家などを買い取っているのですが、実際には再開発が始まるまでに何年もかかります。そして、買い取った住宅はずっと空き家になったままにされていました。私たちは、同社との信頼関係を深めつつ、企業側の事情も踏まえて、再開発が始まったら必ず出て行くという借地借家法の適用のない契約を締結し、税金や管理の手間も負担することで、空き家の無償提供を実現しています。また、銀行も、社会貢献に積極的な会社のESGファイナンスを促進されています。本活動に賛同いただいた銀行が、連携する不動産会社のSDGs私募債発行を支援し、当団体には銀行の手数料相当を寄附いただくという仕組みも実現しました。

私たち東京里山開拓団の活動の根底にあるのは、自立について"支援"ではなく、"応援"をするところにあります。支援というのは、支援する立場からされる立場への一方通行ですが、応援というのは双方向です。だから子どもたちにも自分でやれるところはもちろん自分でやってもらい、彼らにも、余裕ができたら本活動に協力してもらいます。この活動の意味や価値を一番感じてくれる彼らが後輩のために協力し、やがて後輩がさらに後輩のためにと動くことで、このふるさとづくりがずっと永続していくことを目指しています。

質疑応答

Q.これまで試行錯誤しながら何度も壁にぶつかってきた、と伺いました。そういった壁をどのように乗り越えてきたのでしょうか。

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これまで本当にたくさんの壁がありました。一般的には、試行錯誤をして壁にぶつかることを嫌う人は多く、失敗することの恐怖感や一度失敗するとどこまでも落ちて行ってしまうのではないか、と不安になる人も多いかもしれません。でも、試行錯誤には多角的な意味、価値があることが分かれば、めげずに乗り越えられるものです。まずは試行錯誤を"俯瞰して捉える"ということ、特に、もし試行錯誤をしてみて失敗したらそれをどう受け止めるかが大切です。後になって試行錯誤したことそのものが評価されることはよくあります。「失敗したし、⾃分にはもう向いていない」と分かれば、そのときを⽅向性を変える契機にしてもいいのです。

でも試行錯誤をすること自体は止めないでほしいです。なぜなら、そこには答えを見つけ出すこと以外の、大きな意味があるからです。それは、試行錯誤しながら泥臭く頑張っている人は、「周りの人の心を動かすことができる」ということです。本気で一生懸命やっていると、「協力しますよ」という人が出てくることがある。そんな周りの人とのご縁によって、自分ひとりでは解決できなかったことももっといい形で解決できるようになってくるのです。私たちの団体も試行錯誤のなかでご縁を拡げてきました。その方々と一緒になって本当の答えを探していく。でも、試行錯誤をしない限り、そこにはたどり着けないんです。試行錯誤の本当の意味はそこにあるんだと思っています。皆さんもこれから、いろんなことに試行錯誤しながら取り組んでいただければと思います。

Q.企業からの寄附を主な資金として事業を行っているということですが、経済環境や外部の状況によって左右されてしまうのかなと感じました。今後、安定した事業の仕組みとして、自分たちの財政基盤をつくることを考えているのかをお聞きしたいです。

私たちは、このふるさとづくりを永続できる一番いい方法をずっと探してきて、今の運営方法に至っています。団体のメンバーも報酬が目的でなく、活動自体に価値を感じている方々がボランティアで集まってきてくれています。私も最初は、仕事の休日に趣味や子育てのついでに始めたのがきっかけです。今後もそういう人たちに集まってもらい、活動を全国に広げられないかと模索しています。

こうしたボランティアを中心とした進め方にはビジネスにはないいいところがあります。例えば、もしビジネス化して専任の職員を雇うなら、その人にずっと給料を払い続ける必要がありますよね。お金が足りなくなった時に、「あなたの給料はちょっと我慢して」というわけにはいきません。そうなると、活動の目指すところに関わらず、その人件費の確保が最優先になっていきます。当初は大きな目標を掲げていたはずなのに、蓋を開けてみたら自分たちの給料の話ばかりということにはしたくないのです。だから、この活動は楽しいから、趣味の延長だから参加したいという人に集まっていただく。そして、活動そのものがさらに楽しいものになる。これはボランティアならではの推進力だと思っています。

私たちの団体ではこの事業をビジネス化するつもりはありませんが、一方で「効率と効果」についてはとことん追求しています。コストパフォーマンスが良くなれば、寄附はどんどん集まってくるのです。今現在、私たちの団体は5年先まで運営できる寄附を集めることができました。もしビジネスとして推進していたら、きっとそれだけでは足らず、自転車操業になっていたと思います。私たちの⽬指しているのは、"永続するふるさとづくり"です。お⾦が出ないなら、ふるさとづくりはやらない、やれないという⼈が中⼼になっては困るのです。このボランティア中心の運営方法は、私たちなりにどうしたら永続できるかを考えつくした上で選択した運営方法なのです。

【関連サイト】

東京里山開拓団