商学部の魅力――安田行宏教授に聞く②

2022/10/27

人生の素養を磨く、多彩な「学びの場」を提供

一橋大学商学部は、1875年設立の商法講習所以来の歴史を誇る、日本を代表するビジネス教育の殿堂であり、近年ではグローバルな評価もますます高まっています。商学部の魅力について、企業金融論が専門で「ビジネス・エコノミクス」の講義などを担当する安田行宏教授に聞きました。

一生使える理論を身につけると同時に、現実感覚を養う

――安田教授は1年生の必修科目「ビジネス・エコノミクス」の講義を担当されています。どんな内容ですか。

安田行宏教授

経済学の基礎の一つであるミクロ経済学を教えています。私自身の専門は4領域の中の金融論になりますが、金融というのは応用経済学の一分野です。企業を取り巻く市場環境の理解にはミクロ経済学が欠かせません。金融論だけでなく、たとえば、マーケティングにはミクロ経済学の中の「消費者の理論」に基づく消費者行動の理解と分析が必須ですし、会計学分野でも、投資家と企業の関係を見る際には、市場の仕組みの理解がベースになります。経営学分野でも、学際領域としてミクロ経済学の基礎は有用だと思います。

テキストは、この分野の教科書の定番と言える『ミクロ経済学(第3版)』(伊藤元重著)を使っています。初版が出てからすでに30年経ちますが、標準化されている理論はそう簡単に変わりません。ミクロ経済学は別名、価格理論とも言われるように、アダム・スミス『国富論』にまで遡りますが、市場の仕組みについての考え方の根本はずっと変わらない。「(神の)見えざる手」とよく言われますが、それを数学的な言葉や、現代の言葉でもう一度とらえ直していると言えます。ですから、いったん身につければ、一生使えるのです。

私の授業は黒板に板書する昔ながらのスタイルです。コロナ禍でリモート授業になってからも、大事な部分は研究室のホワイトボードを使って手書きして説明をしています。講義の最後にアンケートを取ると、「高校時代を思い出した」、「自分はこのほうが向いている」といった感想が寄せられます。こうしたスタイルがなじむ人は、応用経済学系の商学部科目が向いているかもしれません。実際に、「ビジネス・エコノミクスで適性を感じたから、金融のゼミを選んだ」という人も少なくないのです。

――安田教授は「導入ゼミ1」「導入ゼミ2」も担当されています。「導入ゼミ1」は共通のテキストから選んでいるそうですが、「導入ゼミ2」はどんなテキストで、どんな内容を扱っているのでしょうか。

2022年度は、『マクロ経済学(新版)』(齋藤誠、他著)を使用しています。ミクロ経済学とマクロ経済学は経済学の両輪であり、景気や為替、金利など、経済状況をしっかり理解するには、マクロ経済学が必要です。景気動向に無関心な経営者では生き残れませんよね。その意味で、商学部であってもマクロ経済学を学ぶべきと考えて、今年はこのテキストを選びました。

実務家による寄附講義でビジネスの最先端に触れる

――商学部には寄附講義があります。これはどのようなものですか。

ビジネスや企業経営の実際を学ぶための講義です。理論はもちろん大事ですが、理論ばかり学んで現実に目が向かないのでは困ります。医学には興味があるけれど、患者に全く興味がない医者だと困るのと同様です。そこで、ビジネスの第一線で活躍する実務家による寄附講義が商学部には多数用意されています。

たとえば、私が管掌している講義に、客員教授の幸田博人先生が担当されている「企業金融の理論と実務(みずほ証券寄附講義)」があります。幸田先生はみずほ証券の副社長などを歴任された金融界のエキスパートで幅広い人脈をお持ちで、毎回、第一線の実務家をゲストにお招きしています。他所では聞くことが難しい最前線のエピソードも含まれ、大変高度で最先端の内容になっています。私も学生に混じって講義を聴き、翌日のゼミで学生たちとその話題をめぐって議論を戦わせたこともしばしばありました。

学部・修士5年一貫教育プログラム
https://www.cm.hit-u.ac.jp/learning/#fiveYears

渋沢スカラープログラム
https://www.cm.hit-u.ac.jp/learning/ssp/index.html

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