北海道の代表的コンビニ「セイコーマート」・赤尾社長に聞く① ~一橋大学から社長就任まで

第1部

2023/05/30

シリーズ「活躍する卒業生」では、一橋大学商学部を卒業した先輩に、大学時代の思い出や現在のお仕事、在学生へのメッセージなどを伺います。

今回は、北海道の代表的コンビニエンスストア「セイコーマート」を運営する株式会社セコマ代表取締役社長・赤尾洋昭氏にご登場いただきます。株式会社セコマは、洋昭氏の父親である赤尾昭彦氏が実質的な創業者として率いてきた企業であり、現在、北海道を中心に1,000か所以上で地元密着の店舗展開を続けながら全国的な外販にも取り組み、独自の事業モデルを構築しています。2020年に社長に就任した赤尾洋昭氏の意外な横顔やセコマのユニークな経営戦略について、藤原雅俊教授(経営管理研究科)が聞きました。赤尾氏と藤原教授は、本学商学部在学中に同じ1・2年生向けゼミで共に学んだ先輩後輩でもあります。

赤尾社長 藤原教授
赤尾洋昭社長 ・ 藤原雅俊教授

  

一橋大学商学部を目指したきっかけや学生生活について

赤尾社長

赤尾氏: 小さいころから父が家で経営の話をしており、休日に会社にもよく連れていかれたので、経営に興味がありました。大学を選ぶにあたり、父から会計で優れた大学だと聞いていたことと、満足度調査で一位だったこともあり、迷うことなく一橋大学だけを志望しました。在学中に所属した、会計学の伊藤邦雄先生の後期ゼミナールでは、いつも発表前に徹夜していたことを覚えています。大変でしたが、今でも伊藤先生からの教えは頭の中に残っていて、例えば、「競合が嫌がることは何かを考える」という言葉は、経営者として常に意識しています。

藤原: そうですね。私の専門に関わる競争戦略論の視点でお話しすると、企業がお客様に響くものを提供するのはもちろん大切ですが、もう一つ重要なことは、競争相手が反撃しづらいことをやるということです。伊藤先生の言葉は、まさしくそうしたご指摘ですね。

赤尾氏: マーケティング、経営戦略の竹内弘高先生の言葉も印象に残っています。「International Business」の講義で「何をやらないかを決めることが大切」と教わりました。この言葉も、今、実感として理解できます。小売業は何でもできるし、やりたくなってしまいますから、「ウチはこれはやらない」ということを決めるのは重要だと思っています。

藤原: セコマの出店戦略において、出店する・しないという基準が明確なのは、その学びにつながっていたのですね。私は片岡寛先生が1・2年生向けに開いていたゼミで赤尾さんとご一緒しましたが、片岡ゼミの思い出はいかがでしょうか?

赤尾氏: 一橋大学の特徴はゼミであり、前期は必修ではありませんが*1 、2年生で片岡先生のゼミを履修しました。ゼミでは、毎週誰かが自分でテーマを決め、調査して発表していました。自分でテーマを決めることや、ゼミテン*2 が用意したテーマについて議論することなど、難易度が高かったと思います。片岡先生は商品学の研究をされていて、自分自身もマーケティングに関心がありましたので、醤油の歴史や考え方は大変勉強になりました。
*1 現在の前期ゼミは必修です。
*2 ゼミテン:ゼミナール受講生の意味。「ゼミナリステン」の略称

藤原: 後期ゼミでマーケティングではなく会計の伊藤邦雄ゼミに入ったのは、どのような背景からですか?

赤尾氏: 会社を経営するには、会計や財務の知識が不可欠だと考えたからです。会計はあまり興味のある分野ではなかったのですが、一度しっかり学んでおこうと思いました。伊藤先生は、企業行動分析をテーマにされていましたので、会計制度が企業行動に与える影響にとどまらず、戦略やマーケティング、組織が財務数値にどのようにリンクしていくかなど幅広くご教授いただき、今でも経営の基礎となっています。

実は経営コンサルタント志望でした

セイコーマート店舗外観

藤原: 父親がセコマの実質的な創業者であり、赤尾さんは大学で経営を学ばれたので、セコマの事業をいずれ引き継ぐのは必然の道筋に見えますが、大学卒業後は全く違う業界のマツダに入社されました。理由は何でしょうか。

赤尾氏: 学生時代は経営コンサルタントになりたいと思っていましたので、セコマに入ることは考えていませんでした。そんな中、マツダが当時では珍しい職種別の採用を行っており、経営企画職の募集がありました。財務系を中心にさまざまな部署を経験して、マネジメント人材を育成するというプログラムに惹かれて入社を決めました。在籍した5年間で、7つの部署・子会社での業務を経験し、会社を包括的に見る目を養えたと思っています。規模の大きな企業での意思決定や部署間の調整など、貴重な経験をさせていただきました。在職中には、希望退職制度によって部署の1/3の社員が退社するという厳しい場面にも遭遇しました。

藤原: そして2004年に、当初継ぐつもりがなかったセコマに入社されました。きっかけは何だったのでしょうか。

赤尾氏: マツダに入った直後から、セコマの関係者から何度か「セコマに入るべきだ」と入社を薦められていました。次第にその気になって、北海道に戻ってきました。

セコマ入社後は幅広く経験を積み、取締役へ

藤原: セコマに入社して2年後に取締役に就任されますね。その間、どのような仕事をされていましたか?

赤尾氏: 入社後は、他の社員と新入社員研修を受けたのち、店舗運営、商品、店内調理、店舗開発の部門を回り、子会社の経営管理を行う関連事業室に配属となりました。3年目で取締役になってからは、財務部長として銀行取引などを担当しました。

藤原: 特に財務では、伊藤先生のゼミでの学びが役に立ったのではないですか?

赤尾氏: はい。大学では、バランスシートから何を読み取り、どう作っていくかということを基礎から学んだので、それが仕事に活きました。父は損益計算書の方に関心がありましたので、私はバランスシートを健全にすることに努めてきました。

藤原: お話を伺っていて、我々が学生だった頃にキャッシュフロー経営が注目され始めていたということを思い出してきました。とても懐かしいですね。