第2部
2023/05/30
一カ月セコマだけで生活できる品揃え
藤原: セコマは、他のコンビニエンスストアとは異なる独特な戦略を展開しています。例えばオリジナル商品の開発を進めた当時は、どのようにマーケットを見ていたのでしょうか?
赤尾氏: セコマがオリジナル商品の開発を始めた背景は3つあります。まず父は流通業界が大手による寡占市場になった時に、商品の調達が難しくなるため、自分たちで原料から手掛けなければならないと考えていました。2つ目は、地元の企業として自分たちが納得できるものを提供するには、自分たちで作ることだという思いがありました。3つ目は、ビジネスモデルとして模倣されにくいポジションに立つべきだという考えがありました。 これらは、欧米の流通業をみていた父にとってごく自然な判断だったと思います。日本はナショナルチェーンが類似したビジネスモデルを展開していますが、コンビニエンスストア発祥の地であるアメリカでは、形態はさまざまです。小売業でありながら自ら商品を製造するということは珍しくありません。
藤原: 生鮮食品もかなり数多く扱っておられますが、セコマは最初からいわゆるスーパーマーケット的な特徴があったということでしょうか。
赤尾氏: 小売業は、売れるものは何でも売るという傾向があり、以前はどのチェーンも野菜も含めて何でも売っていました。しかし、ある時期大手コンビニが生鮮食品から手を引き始め、どこも皆同じような傾向になっていきました。当社は他社を見て路線変更することをしないので、結果として「スーパーマーケットのようなコンビニ」という独自のポジションになったということです。 コンビニエンスストアは、大手流通業の子会社が多く、私たちより圧倒的に大きい規模でした。そのため私たちは差別化して「メシの種」を見つけることが重要でした。今、私が社員に言っているのは、他社への対抗ではなく「一ヶ月セコマだけで生活できる品揃え」を目指そうということです。街にセコマしかなくてもなんとか生活できる、そういう店づくりです。
藤原: コンビニ各社が都市型に変化していった中で、セコマのポジショニングが際立っていったということですね。差別化は、主として北海道に絞って店舗を配置するという姿勢にもよく表れていると思います。例えば、最北端に位置する稚内市の豊富町にも店舗がありますが、隣接店は南に100kmも離れていますね。
赤尾氏: 北海道は土地が広いので、もちろん配送ルートを考えることが欠かせません。まとまった店舗数がないと配送コストが高くなってしまいますので、それをいかに低減できるかがポイントです。
藤原: 注力されている店内調理も店舗配置に関係しているのではないかと思いますが、店内調理というアイデアはどこから生まれたのでしょうか?
赤尾氏: アメリカです。店内調理を行っているコンビニエンスストアが多くあります。当社で始めた理由は2つあり、ひとつは、おっしゃる通り店舗の配置によるものです。離島などの遠隔地は悪天候などにより配送ができない時がありますが、そうした中でも商品を提供するために、店内調理という解決策が生まれました。もうひとつは、出来たてのおいしさです。工場からの配送は時間がかかりますが、ごはんや半熟の卵料理、揚げ物といった総菜は、店内調理の方が圧倒的においしく提供することができます。
「地の利を活かす」地元密着で高満足度
藤原: 店舗数が1,000店舗を超えてもなお、顧客満足度指数(日本生産性本部・JCSI)が7年連続で業界1位を維持しています。どのような努力がこの結果に結びついたとお考えですか?
赤尾氏: 名誉なことですが、気を引き締めなければならないと思っています。この調査は店舗に来られたお客様からの回答であって、来店されていない方々のご意見は入っていません。今後はお客様の層をより広げる努力をしていかなければならないと思っています。当社の従業員は北海道出身者が多いので、地元のお客様が欲しいものをよく知っています。そうした地の利を活かし、地元の方々の心に響くような商品開発を心がけていきます。
また、加盟店の声や、お客様のご意見といった生の声を重視しており、情報が集まってくる仕組みを作っています。例えば、加盟店であればスーパーバイザーからの報告だけでなく、店舗で使うタブレットから加盟店オーナーやアルバイト従業員も気軽に意見を送ることができます。お客様もレシートのQRコードからそのお買い物の意見を送信できるようにしています。そうしたご意見も自分自身が目を通すようにしています。
藤原: 顧客層を広げていくために、どのような施策をお考えですか?
赤尾氏: マス広告やサンプリング、あるいはSNSでの交流や新たな出店という形で顧客層を広げていきたいと考えています。ただ、すでに毎日お越しいただいているお客様でも、昼食だけ買われるとか、ビールしか買われないというお客様もいらっしゃいます。そういうお客様は他にどのような商品があるのか、あまりご存じないかもしれません。ですから、もっと商品の発信をしなければいけないと思っています。
藤原: なるほど。一方で、競合他社との差別化はいかがでしょうか。これまで数多くの施策を展開してこられた中で、大手コンビニチェーンにとって真似しづらい取り組みがあればお聞かせください。
赤尾氏: 北海道だけ別のオペレーションにしないと成立しないような施策は、全国一律で同じ展開をしている企業にとっては嫌でしょう。例えば、節分に食べる商品を、あえて北海道だけは成人の日に食べる施策を打つというようなことです。また、店舗のロイヤリティなどビジネスモデルも他社とは異なるので、商品によっては他社では扱いにくいものもあるでしょう。
藤原: 商品の構成や発売のタイミングが地域特有のものになるほど、全国展開する他社にとっては厳しいものになるということですね。
赤尾氏: 会長の丸谷は「グッド・サイズ」と言っていますが、私たちのような1,000店規模の企業であれば調達できるけれども、10,000店ともなる企業では全店で販売できるだけの量を調達できないという食材もあります。地元のものを使って開発し持続的に販売するということが他社では難しく、当社にとっての差別化ポイントとなっています。
藤原: なるほど。現在、外販にも取り組まれていますが、今後も力を入れていくのでしょうか?
赤尾氏: 出店には限度がありますので、もちろん私たちの生産能力の範囲内にはなるものの、事業成長の余地として外販は有力だと考えています。