北海道の代表的コンビニ「セイコーマート」・赤尾社長に聞く③ ~セコマの「人的資本」の考え方

第3部

2023/05/30

赤尾社長 藤原教授
赤尾洋昭社長 ・ 藤原雅俊教授

  

お客様に分かりやすく、従業員にとって働きやすい店づくり

藤原: 店舗開発にも注力されていますが、そのポイントについて教えてください。

赤尾氏: まずは、投資回収の見通しです。それからレイアウトは、お客様に分かりやすい売り場であることは当然ですが、近年はそれに加えて従業員にとって働きやすい場所であることを重視しています。従業員のモチベーションを高く維持することが、人材の採用にもプラスに働きます。ですから、バックヤードや設備の使いやすさの改善に取り組んでいます。

藤原: この点は、人的資本という最近の考え方と深く関係してきますね。

セコマの人材に求めるもの

新卒採用

藤原: 人材に注目すると、セコマは学校教育への協力や社内人材の育成にも熱心に取り組んでおられます。セコマにおける人材育成の考え方について教えてください。

赤尾氏: セコマの場合、新入社員はいくつかの部署を回り、その後入社10年目くらいから専門性を磨いてもらう形になっています。人材育成で重視しているのは、まずは専門性、そしてどこでも通用するマネジメントの力、加えて固定観念にとらわれない発想力です。マツダ時代に複数の部署を経験し、一つの部署だけでは会社全体は見えにくいことを経験しました。そうした複数の部署を経験できる機会を社員にも用意するようにしています。

藤原: 店舗数が1,000店を超え、フランチャイズ店では後継者問題が浮上する中で、いかに良いサービスを提供し続けていくのか、ということが重要な課題になると思います。最近では直営店比率が高まっているようですが、地域密着の特徴を出していくために、社員教育の面で心がけていることはありますか?

赤尾氏: 従業員への理念の浸透を重視しています。すべての従業員が理念を共有していることが理想的ではありますが、少なくとも店長・管理職には確実に落とし込んでいく努力をしています。「我々がどういったことを考えて仕事をし、どのような商品をお客様にお届けしたいのか」「セイコーマートらしさとは何か」ということを、2、3カ月に一回行う店長やスーパーバイザーの会議で話し、年に一回は大きな会議の場で理念の浸透を図っています。

社長としての初仕事はコロナ対策~従業員の安全安心

売り場スタッフ

藤原: 2020年に社長に就任されてから今日までを振り返って、特に注力されてきたことは何でしょうか?

赤尾氏: 将来予測です。社長に就任してすぐの頃に、新型コロナウイルス感染症の拡大が始まり、その対策が社長としての初仕事でした。不確実な社会、特にコロナのような実態の分からない現象における社長の役割というのは、社会の変化を予測してどの方向に会社が向かっていくのかを社員に示すことだと考えています。

藤原: 結果として、コロナ禍というのは、営業的にはプラス、マイナスどちらの影響を御社に与えましたか?

赤尾氏: 業績としては、プラスとなりました。

藤原: 外食ニーズがなくなって、自宅で食事をするための総菜ニーズが高まったということかと思いますが、食材を確保するのは大変だったのではないでしょうか?

赤尾氏: 当時は、外食業界向けの需要がなくなっていましたから、調達を拡大することは難しくはありませんでした。ただ、コロナにより取引先の工場が停止するという事態はありましたから、そうしたことへの対応には苦労しました。
調達よりも大変だったのは、従業員のケアです。当初、新型コロナは未知の存在でしたから、従業員の安全を第一として、考えられる対策はすべてやりました。後から振り返ると無意味な対策もありましたが、やれることは何でもやり、不安を少しでも和らげて働ける環境づくりに努力しました。

藤原: なるほど。危機対応のリーダーとして、まずは従業員の安全安心を考え、少し大袈裟と思われるくらい対応を徹底されたということですね。

後輩たちへのメッセージ「難題にも逃げずに取組む」「歴史を学ぶ」

藤原: 最後に、仕事をしていて楽しいことや、やりがいを感じていることなどを交えて、後輩たちへのメッセージをお願いいたします。

赤尾氏: 社長になる前からそうですが、難しい仕事を乗り越えた時の達成感は格別です。「こんなことはもう無理」と思うことが時にはあるのですが、そこから逃げるわけにもいかない状況では腹をくくって何とかするものです。すると、大体の問題は本当に何とかなってしまいます。後から振り返るとそれは大した問題ではなかったりするのですが、ただそれを乗り越えた自分にとっては大いに自信につながっていると気づくのです。ですから、後輩の皆さんには、「逃げないで取り組んで、最後まで残っている人であってほしい」と思います。それがスキルも精神的にも鍛えられる経験になるはずです。
もう一つは、歴史を学ぶことをお勧めしたいと思います。私は一橋で経営の歴史を学ぶ機会がありました。先ほど将来予測の話をしましたが、例えば、減価償却はいつどういう理由で始まったかといった歴史や、経営戦略のトレンドの推移を知ることによって、今が理解できて、この先どう変化していくか予測することができるはずです。時間にゆとりのある学生時代に、最新の理論だけではなく、過去の歴史も学んでおくことをお勧めします。

藤原: 確かに、足元の出来事に一喜一憂していると足がすくんで前に進めなくなりかねませんので、できるだけ遠くを見通すことが大切ですね。そのためにも大学時代に歴史を学び、時間軸を長くとって大局的にものごとを捉える力をつけることが重要ということですね。
本日は、学生たちに素晴らしいアドバイスをいただき、ありがとうございました。

  

インタビューを終えて(藤原雅俊教授)

大学時代に経営戦略やマーケティング、商品学、そして会計学を学び、外で修行を積んだ後に北海道に戻って事業を引き継いだ赤尾氏の経営観を伺う、とても良い機会でした。一橋時代に学んだ経営戦略やバランスシートの考え方を経営の舵取りに活かしておられる様子がよくわかりました。今後さらなる発展を心から楽しみにしたいと思います。