ファミリーマート・足立CMO・CCROに聞く② ~ファミリーマートでの戦略的マーケティング

第2部

2024/03/19

シリーズ「活躍する卒業生」では、一橋大学商学部を卒業した先輩に、大学時代の思い出や現在のお仕事、在学生へのメッセージなどを語っていただいています。

今回は、ファミリーマートのエグゼクティブ・ディレクターCMO(兼)マーケティング事業本部長・CCRO(兼)デジタル本部長の足立光氏に、本学経営管理研究科・藤原雅俊教授と福地宏之准教授がお話を伺いました。足立氏は1990年に商学部を卒業後、P&Gジャパンに入社し、その後コンサルティングファームや事業会社を経て、2015年より日本マクドナルド株式会社の上席執行役員マーケティング本部長として同社のV字回復に貢献。2020年10月に株式会社ファミリーマート初のチーフ・マーケティング・オフィサーに就任し、同社のマーケティング強化に取り組まれています。

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左から、足立氏、藤原教授、福地准教授

株式会社ファミリーマートの課題と機会

ファミリーマートに入社された時の第一印象はいかがでしたか?

実は、正式に入社する2、3カ月前から、週一でコンサルティングを行なっていました。その期間に、ファミリーマートのマーケティングに関する課題と機会をまとめ、会社へ提案していたのです。ですから、入社時点では既にある程度、「これは変えた方がいい・変えない方がいい」という仮説がありました。

その時にはどのような課題を感じられたのでしょうか?

まず1つ目に、ファミリーマートが自身のポジショニングを確立できていなかったということです。日本のコンビニ市場は、業界上位の競合企業が形作ってきた歴史があり、ファミリーマートはそれを追いかける形で伸びてきました。加えて、経営体制が移り変わっていく中で、一貫したメッセージを打ち出すことが難しかったという事情もありました。2つ目は、これまで成長を続けてきたコンビニ業界において、成長の源泉であった新規出店が難しくなってきた中、さらに成長していくためには、競合や他の業態から勝ち取るか、新しい価値を創造しなくてはいけないのですが、まだ「これは!」という良いアイデアがない状況でした。そして3つ目に、社内でマーケティングという概念が希薄だったという課題もありました。これはファミリーマートが特殊なわけではなく、流通業では商品部と営業が組織の中心というのが一般的なのです。しかし、本来は、商品部が良い商品を作り、営業が良い売り場を作った上で、それをお客様にも知ってもらう機能としてマーケティングが必要なのです。ですから、店に来ないお客様に知ってもらう、来店客数を増やすというミッションで、マーケティング本部を作ることにしました。

マーケティングが、商品部や営業と連携しながら効果的に機能するために重要なことは何でしょうか?

コミュニケーションや販売促進活動だけを良くしても効果はありません。商品やサービス自体、価格、販売チャネルなど全体を変えていく必要があります。マーケティングは本来、「4P*」にもあるように、Product(商品)やPlace(流通)も含むのですが、日本企業のほとんどの場合、マーケティング担当者には、商品や価格、営業に関する権限はありません。彼らは別の部門なので、その人たちを説得して変化を起こしていく必要があり、だからこそ人間力が大切になります。

すべては戦略

そうした課題分析のもと、どのように施策を打たれたのか教えていただけますか?

入社前から関わっていた企画の成功が連続し、こうすれば当たるという感覚が社内にも私にも出てきました。それがより大きな成功につながったのが、21年3月発売のクリスピーチキンでした。「ファミチキ越えの問題児」として打ち出して、爆発的な人気を得て、一時は販売を停止するまでのヒットとなりました。品切れは良くないことですが、反響は大きかったですね。その後も、「ファミマ・ザ・メロンパン」や「ファミマ・ザ・カレーパン」など、品薄になるようなヒットが続いたので、これは行けるなと感じていました。

足立さんが入られてからプライベートブランドの戦略が大きく変わったという印象を受けます。どのような考え方に基づいて、どう変える戦略だったのでしょうか?

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まず、それまでいくつもあったプライベートブランドをまとめました。「ファミリーマートコレクション」「お母さん食堂」「ファミリーマート」という3つのプライベートブランドを、「ファミマル」という1つのブランドとして再編成しました。また、定番品の強化を図りました。期間限定品は売りやすいのですが、翌月にはもう残っていないので、持続的な売上げ貢献にはならないですよね。一方で、定番品を太くすればするほど、欠品が減り、棚の効率が良くなるし、配送効率も上がり、原価は下がります。期間限定品をやめてはいませんが、それだけではなく定番品もしっかりと打ち出すようにしました。それと、もうひとつ挙げるとすれば、打ち出し方も変えました。広告費を大きくかけるのではなく、SNSとPRを上手く使って、ニュース(話題)を作っていく手法です。

事業の可能性はもっと広がる

今後に向けた戦略についてお伺いします。 3月から就任されたチーフ・クリエイティブ・オフィサーとしての戦略展開についてお話しいただけますか?

チーフ・クリエイティブ・オフィサーとしては、新規事業系を統括します。今のマーケティング本部の管轄に、デジタル事業本部とクリエイティブオフィス&8という組織が加わります。クリエイティブオフィス&8というのは、グループ会社で、例えばテスラのEV充電器の設置など、店舗に新しい機能を付け加えていく事業を展開しています。ベンチャーキャピタルとして投資をしたり、ファミペイやECといったデジタル事業もあります。例えば、自社を「小売業」と定義すると、他の小売業態やECが事業領域に入ってきます。「飲食業」と定義すると外食が、「フランチャイザー」と定義するとコンビニ以外のフランチャイズビジネスも領域に入ってきます。ファミリーマートの事業をいわゆるコンビニエンスストアとして捉えるのではなく、一歩引いてみると、ものすごく可能性が広がると思います。

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事業の定義は、経営戦略論の世界においても非常に重視されるところです。これからの展開を、とても楽しみにしています。

*4P:マーケティング戦略立案時に考慮すべき4つの要素。製品(product)、価格(price)、流通(place)、プロモーション(promotion)