ファミリーマート・足立CMO・CCROに聞く① ~バブル最盛期の大学生からハードワーカーへ

第1部

2024/03/19

シリーズ「活躍する卒業生」では、一橋大学商学部を卒業した先輩に、大学時代の思い出や現在のお仕事、在学生へのメッセージなどを語っていただいています。

今回は、ファミリーマートのエグゼクティブ・ディレクターCMO(兼)マーケティング事業本部長・CCRO(兼)デジタル本部長の足立光氏に、本学経営管理研究科・藤原雅俊教授と福地宏之准教授がお話を伺いました。足立氏は1990年に商学部を卒業後、P&Gジャパンに入社し、その後コンサルティングファームや事業会社を経て、2015年より日本マクドナルド株式会社の上席執行役員マーケティング本部長として同社のV字回復に貢献。2020年10月に株式会社ファミリーマート初のチーフ・マーケティング・オフィサーに就任し、同社のマーケティング強化に取り組まれています。

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左から、足立氏、藤原教授、福地准教授

バブル最盛期の学生時代

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学生時代の足立さん

足立さんは1986年に商学部に入学して学生生活を送られましたが、どのようなことに打ち込んでおられましたか?

色々やっていましたね。当時はバブル期だったこともあり、学生が働く場所がたくさんありました。私は友だちと遊ぶためのお金も欲しかったので、飲食店や家庭教師など全部で3つのバイトを掛け持ちしていました。サークルは、「Do!」というテニスサークルに所属し、「夏はテニス、冬はスキー」という、バブル期の典型的な学生生活でした。他にも、自分で立ち上げたイベントサークルの活動もしてもいました。とはいえ商売のつもりでやっていたわけではなく、みんながハッピーだったらそれで良いという気持ちで、ワイワイと企画を考えて実施するのが楽しかったですね。

周りをハッピーにしていこうというのは、ご自身のミッションとして今も掲げられていますね。そう掲げるに至った経緯を教えていただけますか?

3年次からの後期ゼミナールで竹内弘高教授(当時)のゼミに所属したのですが、4年次に「自分は何のために生まれてきたのか」という課題が出されました。そこで、「自分がどんな時に楽しかったのか」というテーマに置き換えて、それまでの事例を集めて分析していくと、周りの人を楽しませることが自分の楽しみになっているという結論に至ったのです。そこから、基本的には変わらないスタンスでやっています。今日までずっとビジネスをやってきましたけれど、何か困っていそうな会社に行ってそこが良くなったらみんなハッピーになりますよね。

なるほど、そこから始まっていたのですね。竹内ゼミで他に印象に残っていることはありますか?

竹内ゼミは留学生が多く、先生ご自身も海外の大学院を出られていて、国際的でした。集まってきた学生も面白そうな人ばかりで異彩を放っていました。ゼミでは毎週のようにケースを読んでディスカッションするのですが、英書も結構あり、大変だったことを覚えています。

ハーバードビジネススクールで作られたケースを使うこともあったと聞いています。毎週20ページくらいを英語で読んで、それに対する意見をまとめるということになりますね。

そうです。なにしろゼミはほぼ毎週あるので、それに向けてケースを読んで自分の見解をまとめなくてはいけません。ですから、集中して何かを理解するという訓練になりました。ケースは分野も多様なので、視野も広がりました。また、竹内ゼミには「きめ事(「戒律」と呼ばれていました)」とも言うべきものがいくつかあり、それらがいまでも自分の中に行動原則として根付いています。例えば、「Be different」他人と同じことをしないということは、自分自身の価値観にもちょうど合っていて強く残っています。就職する時も、金融や商社が人気でしたが、「Be Different」ということで、当時はまだ数少なかった外資系企業のP&Gジャパンを選びました。

社会人の初めの学びがその後の働き方に

P&Gジャパンではどのような経験をされたか、教えていただけますか?

入社してみると、仕事仲間は相当ユニークな人たちの集まりで楽しかったですよ。当時はバブル真っ只中で、日本企業が世界最高に強い時代に、あえて外資系を選び、かつ、当時人気の銀行・証券・商社ではなく、あえてメーカーを選ぶような人たちが集まってきていましたからね。仕事はドラッグストアやスーパーマーケットなどで売る商品を担当するのですが、商品や販促など、自分が企画したものが全国展開され、社会に影響を与えているような気がして面白いと感じました。

P&Gジャパンのあと、コンサルティングファームなどいくつかの企業を経験されていますが、その頃の学びとして今でも残っていることはありますか?

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P&Gジャパンの同僚たちと

P&Gジャパンとコンサルティングファームにいた期間をあわせると十数年になりますが、その後の働き方につながる学びが3つほどありました。1つ目は、時間にとらわれないことです。P&Gジャパンでは、4年目で昇進したのですが、そうすると仕事の評価はアウトプットで測られるようになります。勤務時間にかかわらず、仕事の出来で評価されるということです。コンサルタントも同じで、労働時間の長短ではなく、時間をどう上手く活用してアウトプットを最大化するかを大切にするようになりました。2つ目は、ハードな条件でもやり抜くということです。P&Gジャパンでは、他社に交渉に行くと担当が4人出てくるのに、こちらは自分一人、という状況も結構ありました。またコンサルタント時代には、クライアントの大手電機会社のサプライチェーンの課題を、私にはそれまで全く経験がないにも関わらす、数週間ですべて把握せよといったようなことが普通にあり、ついていくのに必死でした。ある意味、修羅場をくぐる経験をこの時期にしました。3つ目は、顧客の心を動かすということです。どんなに優れた提案だと言っても、お客さんの心に届かなかったら意味がないですよね。もちろん戦略を立てる上でロジックは大切ですが、P&Gジャパンでもコンサルティングファームでも、職場の先輩に「心はロジックだけでは動かないから、感情で動かせ」とよく言われました。こうしたことを強烈に学んだ時期でした。

後輩へのメッセージ

そうした時期を振り返ってみて、現在の学生に向けて、大学での過ごし方や、学生時代に心がけてほしいことなど、メッセージをいただければと思います。

まずは、自分自身の反省でもありますが、勉強はちゃんとした方がいいです。なぜかというとフレームワークを学べるからです。フレームワークというのは、先人が知恵を絞り理論化したもので、実社会においては、そうした理論に当てはめて考えると理解が早いことが結構あります。卒業して30年経ちますけれど、今でも使っているフレームワークは「4P」と「3C」ですからね*。そして、学生時代は比較的時間があるので、知見を広めるためにその時間を使ってほしいと思います。社会人になると、なかなかまとまった時間は取れません。例えば、海外のこれから成長する国や地域を見に行くとか、インターンを通じてさまざまな業種を知るとか。それから、英語の習得については強くお勧めします。今後、日本市場は間違いなく縮小していくので、グローバルに活躍できるように英語を身に付けることは必須です。英語が使えればいいという話ではないですが、できないと、仕事によってはディスアドバンテージが生じてしまいます。

大切なメッセージをありがとうございます。留学を目指す商学部生も少なくありませんので、ぜひ参考にしてほしいと思います。

*マーケティング戦略を立案する際に考慮すべきポイント。
4P:製品(product)、価格(price)、流通(place)、プロモーション(promotion)
3C:顧客(customer)、自社(company)、競合(competitor)