一橋大学サステナビリティ経営研究会 第2回/三井化学グループのサステナビリティの取り組み

2025/02/03

今年度本学に新たに発足した「一橋大学サステナビリティ経営研究会」の第2回研究会が、昨年11月に約50名が参加して、千代田キャンパスの大講義室にて開催されました。このサステナビリティ研究会は四半期に一度の定期開催が予定され「サステナビリティ経営の課題解決のための一橋大学発のコミュニティー」になることが期待されています。今回は人的資本経営、DXなどの取り組みを先進的に行い、企業価値創造を進められている三井化学グループのサステナビリティについて、三井化学株式会社理事でESG推進室長の関口未散氏をお招きしてご講演いただきました。
(関口氏には本学の財務リーダーシッププログラムにESG担当の頃ご参加いただいております)


三井化学株式会社
理事 ESG推進室長 関口未散 氏

「三井化学グループのサステナビリティ」の考え方

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弊社のESG推進方針は、基本的にはビジネス機会を探索し、事業活動を通じて社会課題解決を図っていくことを肝としています。ESG推進室を発足させる前、CSR室当時も、思想は今と同じものでしたが、活動や意識が社会貢献、ボランティアに些か寄っていたように思います。しかし、企業としては、しっかりと財務に貢献するような活動が、社会課題解決に繋がっていかなければなりません。持続可能な社会の実現には、多様なソリューションの提供を通じて、企業自身が成長しながら継続的に社会価値を創造していくことが不可欠です。弊社では、こうした考えを「強い会社、いい会社」と表現しています。これを実現するために、ESGの視点で機会とリスクを的確にとらえ、経営に反映させていくことがより重要になっています。

CSR からESG推進室へ―サステナビリティマネジメントの推進

05年当時、現在のESG推進室の前身となるCSR室は、コーポレートコミュニケーション部の配下に設置されていました。このころはまだ一つの部署ではなく、一つのグループという位置づけでしたので社内での発言力も強くありませんでした。CSR本来の思想も全社に上手く伝わらず、寄附、ごみ拾いといった社会貢献活動の印象が強くなってしまっていたため、仕切り直しという意図も込めて、18年にESG推進室を始動しました。部署の席も経営企画部の隣に配置し、より連携を深めて、さらに経営にESGを取り込んでいく体制を整えました。

企業のサステナビリティの取り組みにおける社会課題とは何か。SDGsは世界共通の重要なテーマです。ESG推進室では開設当時から、「SDGs等に示されている社会課題には潜在マーケットがある」、「我々が取り組むターゲットは、こうした社会課題解決に貢献することなんだ」といった説得を社内に展開しています。化学は、いろいろな人の便利や快適に貢献していると考えています。製品が売れ、儲かっているということは、何かしら世の中/人の役に立っているということです。これは即ち、SDGs等に示されている社会課題の解決に一役買っているところもあるのではないかという考え方です。

「VISION 2030」の下でESGと経営を一体化

弊社では、以前は3年ごとの中期経営計画を立てていましたが、16年以降は10年単位の長期計画を立てています。16年に策定した「VISION 2025」においては、計画の遂行を振り返り、世の中の急速な環境変化をとらえた結果、計画の見直しが必要との判断に至り、21年に「VISION 2030」を策定、現在は、その下で3年ごとの計画をローリングしています。見直しにあたり、社会課題への取り組みを求める外部環境を強く意識し、目指すべき企業グループの姿として「化学の力で社会課題を解決」という考えを明記しました。また、これまでの素材提供型ビジネスから、社会課題視点のビジネスへの転換を進めています。さらに、経営計画として、財務目標とともに、非財務についてもKPIを設定し、財務・非財務を統合した経営により企業価値向上を目指しています。

23年にはリスクマネジメントの体制・プロセスを見直しました。それまでは、比較的短期的な時間軸で直面するリスクを中心に考えていましたが、より中長期的な視点で経営環境を見据えることで、脅威の最小化に留まらず、機会へと転化させるという視点で、新たな全社リスクマネジメントに取り組んでいます。

非財務の価値を可視化するBlue Value®とRose Value®

弊社では目指す未来社会として「環境と調和した循環型社会」、「健康・安心にくらせる快適社会」、「多様な価値を生み出す包摂社会」を掲げ、事業活動を通じた実現を目指しています。その実現に向け、弊社の製品・サービスについてライフサイクル全体を通じた環境影響を評価し、その価値を可視化する「Blue Value®」、QOL向上への貢献に焦点を当てて評価し、その価値を可視化する「Rose Value®」を設計し、それぞれ独自の基準に基づき評価・審査を行ったうえで、Blue Value®製品、Rose Value®製品を認定しています。弊社の製品・サービスが、バリューチェーンを通じて地球環境や社会にどのように影響し、あるいは貢献できるのかを、直接・間接の顧客を含む多様なステークホルダーと共有することが重要であると考えています。また、これらの製品・サービスの販売拡大は、弊社の環境・社会への貢献を最大化することにつながると期待しています。

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「我々の製品が本当に社会貢献しているのか」を判定項目で審査していく

Blue Value®とRose Value®については、海外の関連会社から「ブルーやローズなど、なぜ独自の基準を作るんだと、SDGsのような世界に認識される言葉や定義を基に語ってほしい」と言われることがあります。しかしながら、弊社の生み出す価値や事業戦略と社会貢献との整合性を語るには、汎用的な切り口だとなかなか説明が難しい面があると考えているからです。

とはいえ、独自基準が手前味噌なものでは、貢献を語ることはできません。例えば、「食を守る」と言うことに関する社会課題が何なのかを考えたとき、「有害なものが含まれないようにする」「食材を長持ちさせる」「安定的に輸送する」などといった効果が化学製品としての貢献アクションになるかと思います。弊社では、こうしたアクションが社会課題に対する妥当な貢献であるか、我々の製品が本当にそれらに貢献しているのか、透明性を持った判定項目でチェックし、社外のアドバイザーなども招聘して審査を行っています。

Blue Value®とRose Value®は、弊社グループの目指す未来社会の実現を目指して設定したマテリアリティのうち、「ライフサイクル全体を意識した製品設計」、「気候変動」、「サーキュラーエコノミー」、「健康とくらし」、「住みよいまち」、「食の安心」に取り組む方向性を示しています。このBlue Value®・Rose Value®製品・サービスの拡大・提供を通じて、製品のライフサイクル全体で貢献価値の最大化を図ることで、企業成長とともに目指す未来社会を実現していきたいと考えています。

参加者からの質問

本日この研究会に参加された方から、経営目標に関して非財務の要素がなぜ財務的なバリューにつながるのか、なかなか社内で納得が得られない、社内の人にどう理解させているのかという質問を頂戴しました。弊社では、非財務KPIに関わっている全コーポレート部門に、自分たちのやっている取り組みにどのような意味があり、それが本当に財務に影響しているということを示すために、ロジックツリーを作ってもらいました。反発されることもあり結論としては賛否両論でしたが、ロジックツリーを作っていく中で自分のやっていることがどこにつながっているのかを考えて、初めて自分たちの仕事の意味というのが分かったと感謝されることもありました。そんな取り組みをされてみてもいいのかも知れません。

 
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